「私はこの国で女として生きる悩みと後悔と恨みを 『82年生まれ、キム・ジヨン』という小説にした」(チョ・ナムジュ)。
20代から60代までのフェミニストによる珠玉のエッセー集! 江南駅殺人事件をきっかけにあちこちで「フェミニズム」と「フェミニスト」に出会えるようになった韓国。しかし女性の日常は具体的に何がどれだけ本当に変わったのか? フェミニスト宣言をしたばかりの者たちは往年のお姉さんたちが今どうしているのか知りたいと言い、一方お姉さんたちは若い世代がどんな過程を経てそんなにも勇敢に激烈に最後までくじけずにフェミニズムを叫び続けているのかを知りたがっていた。『ハヨンガ』著者チョン・ミギョン、『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュなど26人が寄稿する得がたい一冊!
「私はこの国で女として生きる悩みと後悔と恨みを 『82年生まれ、キム・ジヨン』という小説にした」(チョ・ナムジュ)。
20代から60代までのフェミニストによる珠玉のエッセー集! 江南駅殺人事件をきっかけにあちこちで「フェミニズム」と「フェミニスト」に出会えるようになった韓国。しかし女性の日常は具体的に何がどれだけ本当に変わったのか? フェミニスト宣言をしたばかりの者たちは往年のお姉さんたちが今どうしているのか知りたいと言い、一方お姉さんたちは若い世代がどんな過程を経てそんなにも勇敢に激烈に最後までくじけずにフェミニズムを叫び続けているのかを知りたがっていた。『ハヨンガ』著者チョン・ミギョン、『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュなど26人が寄稿する得がたい一冊!
<本文解説よりー北原みのりー>
少し前のこと。商社に勤める男性(50代男性)と商談する機会があった。私の会社で販売している生理用品の営業をしたのだ。腟に直接入れて使う月経カップの説明していると、その男は、「中に入れて大丈夫なんですか? 痛くないですか?」と不安な顔をした。内心驚きつつ、「腟の中は感じないので大丈夫ですよ」と答えると、「感じない? そんなはずないでしょう」とでもいうような顔でビックリし、こう言うのだった。「僕は、炊飯器が爆発するより、生理用品で事故が起きる方が怖いですね」(その商社は炊飯器も売っている)
ふざけんじゃねーーーーーーーーーー! その場では平然としていたが、帰り道、気が付くと涙がこぼれそうになった。腟のない男が、そして女の体から生まれてきた男が、女の体のことを正しく知ろうともせず、むしろ女に教えてあげるような口調で語れるって、どういう地獄だよ? ふざけんじゃねぇよ! そして私はその男の名刺を、呪詛の言葉を吐きながらビリビリに破いて捨てた。そんなことをしたのは、30年の私の仕事人生で初めてのことだ。こうして、北原みのり51歳の春、まだまだフェミニストでいなければいけない理由を、このヘルジャパンにみつけるのだった。
・・・と、この本を一気に読み終えると、こんな風に自然に「フェミニストの私の話」がスラスラと口から出てきてしまうのであった。私がフェミニストになった瞬間、フェミニストであり続けてる瞬間・・・それは新聞やテレビでは報道されない、でもきっとこの社会を女性として生きている人ならば感じる「あの悔しさ」を、誰かに話したくなってしまうのだ。
「いいからあなたの話しをしなよ」は、フェミニストマガジン「if(イフ)」の誕生から20年を記念して出版された。ここにはイフに関わったフェミニストたち、歴代の編集長等20代〜60代まで、韓国社会でサバイブしてきたフェミニストたちの「私の物語」が詰まっている。
「イフ」の存在は、創刊当初から知っていた。私の親友であるフェミニスト・シンガーのチ・ヒョンが「こんな面白い雑誌があるよ」って教えてくれたのだ。韓国のフェミニズムが近年急に盛りあがっているように見えるかもしれないが、90年代半ば頃から既に、韓国フェミニズムの勢いは日本の比ではなかったように思う。1997年に立ち上がり現在も続くフェミ映画祭「ソウル国際女性映画祭」の盛況ぶり、そのステージで「マスターベーション」「オジサンが嫌い」という歌を堂々と歌うスキンヘッドのチ・ヒョンの姿、フェミニストの女性たちが自らの手で新しい時代を築き上げようとするその力に、私は圧倒されてきた。その中心に、「イフ」があった。長い日帝時代の爪痕が残り、地球上で唯一「冷戦中」である朝鮮半島で、日本よりもあからさまに激しい家父長のなかで、女性たちはその人生をかけるように、社会を変えようと必死に動いていた。
性に関する問題に率先して向き合った「イフ」は2006年を最後に閉完する。あまりに残念な判断だ・・・と当初は思っていたが、本書を読み、外側からは順調に見え、迷いなく韓国フェミニズムの先端を走り続けていたかのように見えていた「イフ」の中にあった個々人の葛藤や痛みを初めて知った。マイノリティとしての女性たちが集うことで生まれる痛みの熱量は、時に外に向かわず、内側で爆発することがある。女性というだけで軽んじられる社会で、自分を信じ、女性を信じ、私たちの力を信じ切ることは、自分で考えているよりもずっと難しいことなのかもしれない。何より私財を投じて「イフ」を立ちあげたユ・ソギュル氏の章は、胸が締め付けられるような思いになる。これほど女性が貶められる社会で、私たちはどう「正気」を保っていられるというのだろう。それでも、フェミニズムの運動は何度も壊れては再生し壊れては再生するを繰り返しを続けている。そしてその再生の過程はきっとより強くなるためのものなのだと、本書を読むと信じられるのである。
アジュマブックスは、「イフ」との出会いから生まれた。雑誌ではなく単行本の出版社として再生した韓国フェミニスト出版社「イフブックス」の日本語訳出版は、本書で3冊目になる。今を生きるフェミニストの生きる言葉を記録することも、フェミニズム運動だと私は思う。未来が重くうつるような2022年、バックラッシュが激しくなりつつある空気のなかで、これまで以上に、私たちには私たちの言葉が必要になるのだと思う。だから、「いいから、あなたの話しをしなよ」。