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この社会から差別をなくさなければ…

打越さく良2015.09.08

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人種差別撤廃施策推進法案の後押しに必要なのは、世論(私たちの気持ち)
現在、国会(第189回)では安保関連法案・戦争関連法案の成立阻止に向けた攻防のかげでいまひとつ目立たないが、野党から提出された人種差別撤廃施策推進法案の行く末がとても気になる。師岡康子弁護士が指摘するように(2015年8月29日朝日新聞(わたしの視点))、この法案は、1995年(20年も前!!)に日本が加盟した人種差別撤廃条約で定められた義務を具体化し、国の基本原則・方針を定める基本法であり、本来は20年前に作るべき法律だ。国と地方公共団体に、ヘイト・スピーチのみならず、就職差別や入居差別・入店差別等人種産別全般の撤廃に取り組むよう枠づけるもの。法務省がぼんやりと「ヘイトスピーチ、許さない。」とのポスターを掲げるをする程度で、この社会に根強い、いやますます荒れ狂ってきたかのような差別が解消に向かう…と本気で信じている楽観的な人はいないだろう。「それでも、差別はなくならない」と醒めて嘯くのもまだはやい。まずは、国は、がつんと包括的に差別撤廃に取り組む一歩として、人種差別について基本法すらない現状を改め、上記法案を成立させるべきなのだ。

おっと、いけない。法律家の文章はこれだから…。硬い、硬すぎる。えーと、そもそも人種差別撤廃条約とは…。政府報告に対する人種差別撤廃委員会の厳しい最終見解は…。いや、ますます硬いか…。
ガッチガチの法律論は、法文を練り上げるプロたちの間では重要。しかし、法律成立へのムードを盛り上げていくためには、「基本法もないなんて!?差別の蔓延を許してしまうことになる、それはよくない!」という声が大になっていく必要がある。そういう気持ちの人が増えることが、差別の解消にもつながっていく。
他方、「差別はいけません」、「ヘイトスピーチ、許さない。」といったスローガン・お題目だけで、Web上にヘイト罵詈雑言を書いている人が「なるほどね~」と腑に落ちてくれるものではない。


「お友だちが泣いているよ」
 少年隊の東山紀之さん(この本を読んだ後、「ヒガシ」ではなく「さん」付けしたくなった)の『カワサキ・キッド』(朝日文庫 2015年)は、おいたちから現在までを語る自伝的エッセー。
 母と妹との家族3人で川崎のコリアンタウンで過ごした子ども時代は貧しかったが、周囲も皆貧しく、それがふつうだったという。母子は、周囲の朝鮮人家族に支えられた。かわいがってくれ、遊んでくれ、食べさせてくれた在日の人々に対する深い感謝の気持ちが何度もつづられ、胸をうつ。
何の気取りもない、淡々とした筆致ながら、朝鮮学校に関するデマや、本名を名乗れなかったこと等、様々な在日の人たちに対する差別に対しては、憤りを隠さない。朝鮮学校が無償化から外されたニュースに、「いまも変わらない日本の社会の器の小ささ」を感じるときっぱり批判する。憧れの人だった王貞治が国籍で国体に出られなかったことにも言及する。「はだしのゲン」を愛読し、広島の原爆資料館を訪れ衝撃を受けたと綴るその後ですぐ、「日本がアジアでした戦争」を知ったとし、さらに「韓国人の被爆者の人生に関心がある」と書く。日本の加害者性にも思いをはせ、差別された人のその後の人生を思う。ヘイト文言にあふれるweb社会、差別を非難する言葉を発するには、相当勇気がいるようになってしまった。それも、芸能人ならなおさら炎上を避け、消耗したくないものかと察する。しかし、何のためらいもなく差別はいけないことを随所に書き記す本著の言葉の数々は、在日の人たちに支えてもらったという感謝に支えられており、強く胸に響く。

 差異がある人たちを受け入れたいという気持ちは、在日の人たち以外にも向けられる。いじめに加担した苦い経験から、「人にやさしくするに越したことはない」と確信したとか、貧困に苦しむ子どもたちを心配し、泣いている子どもをみたら、自分のそばにいる子どもたちに、「ほら、お友だちが泣いているよ」と声をかけたい(会ったことがなくても、友だちだ)という。差別に苦しむ人の悲しみ、痛みを実感していたら、レイシズム以外のことで悲しみ苦しんでいる人にも何か手を差し伸べたい、そう思えるようになる。


お腹を満たせば、絶望はしない
在日コリアンであり女性であるという二重の理由から、ヘイトスピーチ(どうも、スピーチという上品な言葉は事態を的確に表現してないように思うのだが、とりあえず)の集中砲火を浴びてきた李信恵さんの『♯鶴橋安寧 アンチ・ヘイト・クロニクル』(影書房2015年)は、そこかしこで読者にも笑っていいよとばかりにボケも入るものの、それでも中和しようのない、差別を受けてきた当事者の血を吐くような痛みに、胸をかきむしられる。読み進めるのが苦しい。しかし、李さんらはもっと苦しい思いをしてきたのだ。
レイシストに唾をはかれた胸を洗っているうちに血が出たとか、ヘイト街宣を取材した飲み、吐くといった記述を読むと、家族が「もう行かなければいいのに」というも、もっともだと思う。胸をかきむしった痛みや、酩酊し、吐きながらも、吐き出すことができない苦しみを想像し、辛くなる。ヘイトスピーチは「在日にとって猛毒」、「心を殺された」、「いつかは実際に殺されかねないと思うときもある」、そう書きながらも、李さんは、ヘイトデモの取材を続ける。李さんは、ネット上押し寄せしかし、この社会で実際にこんなことが起こっていることを、知らなくてはいけない。是非読んでほしい。

李さんは、ライターの仕事をする一方、地域の子どもたちに勉強を教え、ごはんを食べさせる。在特会の元会長とまとめサイト「保守速報」に対する損害賠償請求も、大阪のおばちゃんが「アメちゃん」を配るように、在日のオモニたちが子どもたちにお腹すいていない?と声をかけるように、誰かの心を少しでも満たすようになれば、という気持ちで、訴訟を提起することにしたという。原告になっても、李さんへの街頭・そしてweb上での攻撃はおさまらない。自分の心も大切にして、と案じるが、悲観し絶望しそうなときに、お腹が満たされると、ほっとする、そんな感じで、という気持ちに、こちらが逆にはっとさせられる。
言葉で教えこまなくても、李さんのごはんを食べる子どもたちは、差別はいけない、と実感するはずだ。かつて川崎で朝鮮人のおばさんにやさしくしてもらい、おいしい朝鮮料理を食べさせてもらった東山さんのように。

 川崎といえば、今年胸が凍るような痛ましい少年事件が起こった。その後、web上には、「川崎は在日が多い」といった、差別的な流言が行き交い、尚更胸がつぶれた。そんな折に在日の人たちとともにこの街で暮らした、彼らはどうしているだろう、どうか幸せであってほしいと願い、自分が住んでいた団地を歩き感慨にふける東山さんの姿に、希望を抱く。「文庫版あとがきにかえて」にある文章を引用して終わりにしたい。私も同感だ。
「人は人を差別するときの顔が最も醜いと僕は思っている。
 大人として、それは子どもたちに教えなければならないと思う」。

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打越さく良

打越さく良(うちこし・さくら)

弁護士・第二東京弁護士会所属・日弁連両性の平等委員会委員日弁連家事法制委員会委

得意分野は離婚、DV、親子など家族の問題、セクシュアルハラスメント、少年事件、子どもの虐待など、女性、子どもの人権にかかわる分野。DV等の被害を受け苦しんできた方たちの痛みに共感しつつ、前向きな一歩を踏み出せるようにお役に立ちたい!と熱い。
趣味は、読書、ヨガ、食べ歩き。嵐では櫻井君担当と言いながら、にのと大野くんもいいと悩み……今はにの担当とカミングアウト(笑)。

著書 「Q&A DV事件の実務 相談から保護命令・離婚事件まで」日本加除出版、「よくわかる民法改正―選択的夫婦別姓&婚外子差別撤廃を求めて」共著 朝陽会、「今こそ変えよう!家族法~婚外子差別・選択的夫婦別姓を考える」共著 日本加除出版

さかきばら法律事務所 http://sakakibara-law.com/index.html 
GALGender and Law(GAL) http://genderlaw.jp/index.html 
WAN(http://wan.or.jp/)で「離婚ガイド」連載中。

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