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No Women No Music 第19夜 北アイルランドで育まれた19歳の自意識/SOAK.

ほんま えつ2015.08.10

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十代後半のころ、胸がときめくほど誰かに恋い焦がれたりしませんでしたか?その相手へばくばくする自分の想いを伝えることができなくて、せつなくて苦しくて・・・。セクシュアリティという言葉すら、まだ持ちえなかったころ。はるか昔のそんな青い時代の痛さをこのSOAK.のデビューアルバム“BEFORE IN FORGOT HOW TO DREAM”を聴きながらふりかえる。

19歳でこの“BEFORE IN FORGOT HOW TO DREAM”でデビューした北アイルランドの女性シンガーソングライター、SOAK.。はちきれそうな自意識を、繊細な硝子細工に見出すような瑞々しく美しいメロディと、決して多くはない選ばれた言葉で綴り、聴く者をしずかにほろ苦い無垢なる音楽世界へと導く。ギターの音色と、すこしばかりざらざらとしたまだ拙さを醸し出すSOAK.のヴォーカル。透き通るような清涼感のあるエレクトロニカのアレンジは、馴染の薄い北アイルランドという国への想いを馳せずにはいられない。

SOAK.ことブライディ・モンズ・ワトソンは、北アイルランドのベルファストに生まれ、デリーで育つ。音楽好きの両親のもとで、ロックからクラシックまで様々な音楽を聴き、13歳ですでに友達とバンドを組んでいたという。SOAK.という名前は彼女の母親がSOULとFOLKをあわせた造語として思いついたものだという。

〈この町が理解できない あなたもそうでしょ?だからここから逃げ出そう だってここの人たちって理解できない 〉‘Sea Creatures’

少年のようなあどけなさを持つ容姿にしっかりと自己を内省する少女の思慮深さをあわせもつSOAK.。まだなにものにも汚されていない純粋さが音楽のみではなくプロモーションビデオに映る彼女の姿からもうかがえる。80年代ザ・スミスを輩出した英国の名門レーベル、ラフ・トレードと契約。そのデビューアルバムのジャケットは、物憂げに俯いた少年か少女かわからないモノクロの写真。はっとさせる何かがある。

北アイルランドの地表には英国の植民地支配の痕跡がのこり、地層にはその無垢なるアイルランドが刻印されているという。SOAK.の育ったデリーという北アイルランド第二の都市はロンドンからの入植者が多かったためロンドンデリーともいわれる。北アイルランドの政治的・民族的な紛争はカトリックとプロテスタント、そして統治国である英国やアイルランド共和国が複雑に絡み合い、にわか勉強だけでは理解しえないほどの問題となっていた。北アイルランド出身のアーティストであれば、この紛争の悲劇や、民族としてのアイデンティティーが少なからず絡んでくるのではないだろうか。しかしこの19歳のSOAK.は、ポスト北アイルランド紛争とでも呼びたいほど、ライナーノーツに付せられたインタビューで「今は終わったぽい。私は男とか女とか関係なく、民族問題も宗教問題も関係ない学校へ通っていて快適だった」とあっけらかんと答えている。北アイルランドで宗派別ではない最初の統合学校が創設されたのは1981年(ベルファスト)。1989年に北アイルランド教育改正条例が制定された後、統合学校の開校が相次いでいるという。

13歳から創りはじめた曲の数々を、これ以上求められないような恵まれた環境で生み出しデビューを果たした19歳のSOAK.。これからワールドツアーも予定されているという。多感な10代の刺さるような自意識を独自の詩的世界で描き切ったのち、その感性をこれからどう掘っていくのだろうか。セクシュアリティや、北アイルランドという土地への思考は、SOAK.のなかでアイデンティティーとしてどうとらえられていくのだろう。それともまったくそんなことへはこだわりを持たないさらなるオリジナリティなものへと発展していくのだろうか。そんな余計な邪推はぐっと押しとどめて、いまはまだ熱の熱いデビュー作“BEFORE IN FORGOT HOW TO DREAM”を聴きこむとしたい。





※参考図書「アイルランド文学 その伝統と遺産」(開文社出版)、「北アイルランド現代史」(彩流社)

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ほんま えつ

ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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