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No Women No Music 第18夜 チンドン太鼓が世界を巡る/こぐれみわぞう(ジンタらムータ)

ほんま えつ2015.07.13

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5月末、ユダヤ音楽に関するとあるイベントでトークゲストの一人であった大熊ワタルさん率いるジンタらムータのミニライブがあった。迫害の末世界各国へ離散したユダヤの人々。1920年代にアメリカへ移住したユダヤの人たちから生み出しされた新しいユダヤ音楽“クレズマー”。既成のジャンルでは語りえないモダンなリズムの楽曲を、大正時代から日本の路上で奏でられはじめたちんどんとミックスしたジンタらムータのクレズマーは越境した音楽サーカス。こぐれみわぞうさんはちんどん太鼓をかつぎ見事なバチサバキで、このクレズマーをリズミカルで弾むように活き活きと彩る。‘PAPIROSN’というバラードではみわぞうさんの美しいイディッシュ語に耳を傾ける。PAPIROSNとは日本語でたばこ。戦争で孤児となった少年が寒い街中で煙草を売り歩くが、道行く人々は見向きもせず少年を笑い助けてくれない。そんな悲しい内容だ。言葉は通じなくとも、アシュケナージ系ユダヤ人の母語ともいえるこのイディッシュ語を丁寧に汲み取るようなみわぞうさんのヴォーカルには、世界各地に離散して生きることを余儀なくされたユダヤの人々の哀しみと、生き延びていくための命の重さと尊さに想いを駆り立てる。大学時に演劇学を専攻しクレズマー音楽で彩られた「イディッシュ演劇」に魅せられ卒論のテーマにしたという。みわぞうさんの中にあるクレズマーをはじめとするイディッシュ文化への熱く深い思い入れはいつしか民族の境を超えた真のものとして魅了する。

「みんな、生まれてきてくれてありがとう~」、6月10日吉祥寺スターパインズカフェで開催された“みわぞう祭り2015 vol.4”にて、自身のバースデイでもあるこぐれみわぞうさんが満員の熱気あふれる観客にマイクで送った言葉だ。こぐれみわぞうさんがちんどん太鼓&ヴォーカルを担うジンタらムータ。ジンタらムータはシカラムータというバンドのチンドンキャラバン。この“みわぞう祭りVol.4”は10人編成のバンドで華やかにくりひろげられた。ブラスセクションでトロンボーン(渡辺明子さん)、トランペット(石渡岬さん)、と管楽器で脇を固める女性たちがかっこいい。みわぞうさん自身が大好きだというキング・クリムゾン、フランク・ザッパなど、おおっとつい前のめりになるような曲を、変拍子どんとこい!という勇ましさでチンドン太鼓をうれしそうに楽しそうにたたく姿にやんや。シカラムータ/ジンタらムータの曲をはじめ、エディット・ピアフ、アストル・ピアソラ、ルーマニアのジプシーブラスバンド‘ファンファーレチョカリーア’のカバーも飛び出し、まさに〈今日の主役は私なの〉と言わんばかりの盛りだくさんな大判振る舞い。そしてみわぞうさん作詞作曲「ゆんたく高江シアター」テーマ曲、この振り幅の広さに驚き興奮し、まるで旅する音楽遊園地に迷い込んだようだった。

ライブ後半のハイライトとなるのはやはりジンタらムータの「不屈の民」~「平和に生きる権利」。すごいタイトルじゃないですか?「平和に生きる権利」。ジンタらムータのアルバム『Dies Irae怒りの日』の大熊ワタルさんの解説によるとこの曲は1970年前後のチリのヌエパ・カンシオン(新しい運動)の旗手で、73年の軍事クーデターで虐殺されたビクトル・ハラの代表曲という。私がいま感じる不安な空気、国の権力者たちの横暴な振る舞いによって脅かされている個人の自由。そんなささくれだった気持ちを抱擁し、負けてられないという意志と勇気を再生してくれる。オープンに好きな音楽を楽しみ、歌い踊る。そんな場がいつも側にあり、人々が集い安心していられる平和。それははじめからあったものではなく沢山の人々ががんばってたたかって獲得してきたもの。抑えられた状況に抗っていく地に足がついた者たちから湧き出るエネルギーを「平和を生きる権利」をはじめとするジンタらムータの音楽は与えてくれる。この日会場にいる演者も観客も同じ線上で楽しみながらここから先へまた踏ん張るエネルギーを蓄える。世界への扉を無限に開いてチンドン太鼓を打ち鳴らし、一人一人が楽しく歌い踊り幸せになる権利がある!とみわぞうさんの一挙一動が歌い踊る。


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ほんま えつ

ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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