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恋の顛末

茶屋ひろし2018.07.04

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春先は学生スタッフたちの就職が決まって辞める人が多くなりますが、その中でよく仕事をしてくれた人がいて、彼女がいなくなることを残念に思っていたら、まだ学生さんでこれまた仕事のできる女の子まで急に辞めると言い出したので、ショックで帰りに花を買ってしまいました。
あざやかな黄色い花の小さな植木です。

他の人がそんなに仕事ができないわけではありませんが、その二人がずばぬけていたので、一人が抜けることによって残された一人に負荷がかかることは予測できました。加えて、本当に仕事ができない男の子を採用してしまったことも原因だったかと思われ、理由を聞いてみたら、大学を辞めて専門学校に行くことにしたので、と予想外の(か、思いやりのある)答えが返ってきました。

時間割が合えば続けてほしいんだけど、とお願いしたら、学校が今より離れたところになるので就業時間に間に合わなくなると思って、と断られました。
わかりました、ありがとうと、今までの働きぶりに感謝の気持ちを伝えました。

仕事ができる、という意味は、よく気が付く、呑み込みが早い、応用が利く、体を動かすことをいとわない、とか、そんなところです。
その新しく採用したという男の子は、体を動かすことはいといませんが、気が付かないので体を動かす機会を見つけられない、といった感じです。
あと、仕事をなかなか覚えてくれない。周囲の人たちが離れてしまうのも時間の問題でした。加えて、周りの人とほとんどしゃべりません。

個人面談をして、教えてもらった作業はメモをとってみてはいかがか、とか、もう少し周りの人と話してみたらどうか、と話してみました。
すると、本人は仕事を順調に覚えて行っていると認識していること、職場の人とは仲良くする必要を感じていない、ということがわかりました。

ああ、これは大変だ、と話しながら思いました。そういえばこの子(24歳)の笑顔をほとんど見てないわ、とか。

こちらとしては、あなたは仕事が覚えられない人だと認識していますと伝え、なぜ仲良くしないなんて決めているの? と聞くと、首をかしげて「今までのアルバイト先でもずっとそうしてきたし、そんなことを言われたのは初めてです。自分はしゃべると手元の作業に集中できなくなるんで、それもあるかもしれないです」と答えました。

店長、あの人1時間くらいずっと同じことしてるんですけど、あんなの10分で終わるようなことなんですけど。

スタッフから聞いていた苦情がよみがえります。
めっちゃ仕事が出来て人間関係がドライな人であれば、まあクールですが、仕事ができないうえに周りと交流しないひとは、何考えてるのかわからん、にしかならないし、周囲との溝が深まるので、ますます日々の仕事に支障をきたすようになります。

というようなことをソフトに伝え、とにかく今のままだと厳しいので、一か月様子を見させてください、と半歩手前解雇通告みたいなことを出してみました。

妥協点が見出せなかったのでわかりあえないかもしれないな、と思いました。
反抗的なわけでもなく淡々としていて物静かな雰囲気ですが、その絶対的な自信のような、分厚い殻のなかにいるような、その世界にこちらの声が届いたとは思えませんでした。

一応注意していたんだけど、一回もあやまんないしな~、
ということは、俺は別に悪くない、と思ってるとゆうことだしな~。

面接では真面目で素直なタイプに見えましたが、それが当たっていたのか外れていたのかもよくわからなくなりました。
ともあれ、このままだと、周囲の人たちのストレスはたまる一方だし、任せられる仕事も限られてきます。
接客も、そっけなさすぎて逆効果です。お客さんがその対応にむっとしても意に介しません。
なにそれ、大物? それとも子供なだけ?

まあ、いいや、辞めてもらおう、とそのあともう一度面談をして、先月辞めてもらうことになりました。

最終日も、今までに何度かやってもらった仕事を、また一から教えながらやってもらい、怒鳴りつけるような上司のもとだったら体で覚えていくタイプなのかしら、などと、やくたいもないことを思いました。
一週間後、その最終日に、彼がある女の子のロッカーにラブレターを残していたことが発覚しました。彼女は、そんなことなら普段からもっと話してくれていたらよかったのに、と言っていたそうです。

素直でいい子だったのでしょうが、自分の世界から出なさ過ぎて、あるいは他人が自分の世界に住んでいないことを知らな過ぎて、起こるべくして起こったような顛末でした。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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