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*映画『ナチュラルウーマン』のネタバレ含みます。

去年の夏にすくすく育った鉢植えは、この冬を経て3分の2が枯れました。
ようやく観葉植物の本を買って読むと、「水やり三年とよく言われますが、初心者はたいがい水やりで失敗します」とのこと。
気温が低くなると、植物は成長をやめてしまうため、そこに水を与えると根が腐ってしまうのだそうです。買った鉢植えに刺さっている、名前と簡単な飼育法が書かれたプレートには、表面の土が乾いたら水をたっぷり与える、としか書かれていなかったので、あ、乾いてるー、とジャンジャン水をやっていたのが原因でした。
プレートに書かれていた「幸福の木」も「真実の木」も枯れました。
そんな春です。

職場では父(社長)の引退に向けて、どんどん私の役職が変わっていき、役員には休みはないから、と釘をさされるがまま、確かに休みたいけど休めない日も増えています。ただ、経営側に回ったせいか、休めないストレスはさほどありません。その代わり人を雇う難しさが押し寄せています。
たまの休みは廃人のようにテレビとパソコンの前から動けなくなっていますが、それでも友人と会えそうなときは会いに出かけます。やっぱ、人やで、一番効くのは、と思います。

年末に声をかけた高校時代の男友達は、私より受け身の人間で、なかなか会う日が決まらないことで有名ですが、今回も希望日がなかなか提出されないので、ちょっと、もう年明けたで、このまま今年も終わるんか、と催促したら、母親が脳梗塞で倒れてバタバタしてた、と返事がきました。それは大変、と思ったら、続けて、「そんなん聞かされるん、いややろ」と書かれてあり、なにゆうてんねん、とむしろそっちに驚きました。その気の使い方がわからん。
職場で極力、人間関係を断っている彼らしい表現です。逆に自分が相手の災難を聞くことに堪えられないのでしょう。
気にすんな、と返したら、母親の手術の前日を指定してきました。なんでやねん、と重ね重ねつっこみました。かまへんと言うので、その日に会いました。

先月連絡が入った大学時代の女友達とは、いつものように2、3回のやり取りで会う日取りが決まりました。これが普通やで、とちょっとすっとします。ときどき一緒に映画を見ます。
「見たいのは『BPM』っていうやつなんやけど、まだやってへんから『ナチュラルウーマン』っていうのはどう?」と誘うと二つ返事でokがきました。
梅田の映画館で待ち合わせて見終わって、ポスターの原題『Una Mujer Fantástica』を眺めながら、読めへんけど絶対ナチュラルウーマンやないな邦題、アレサ・フランクリンの歌が流れてたからちゃう? 安易やわー、と言い合いました。

あとで調べたら、英語では『ファンタスティックウーマン』になっていて、そうか、ファンタスティックだったのかあの人は、と主人公のトランスジェンダーの女性を思い浮かべました。がんがん逆境に立ち向かっていくタフな人だったのに、急にふわっとした印象になってしまいました。
とすると、去年見たハリウッド映画『ワンダーウーマン』のイメージのほうに近いということなのか。あの人は魔法も使える神だったので、私は途中から入り込めなくなって作品世界から離脱しましたが、そういえばと、今回見た映画の中盤で男たちに暴行されるシーン(三人の男に車に監禁されて、罵声を浴びながら顔をセロハンテープでぐるぐる巻きにされる、その後路地裏に捨てられるように放置)を思い出しました。

怪物だなんだと罵倒された後「見ろよ、腕なんかムチムチだぜ」と、お前は本当の女じゃない、というヘイトをさんざん受けていました。
彼女が彼らより小さい女性の体だったら、レイプされたんじゃないかと思わせる場面でした。

却って案外、『ナチュラルウーマン』という邦題は、トランスジェンダーの女性を意識したタイトルなのかもしれないと思い直しました。
ファムファタルを引き合いに出すこともなく、女性はこれまで男性社会の中で、「神秘」だと持ち上げられては「穢れ」として貶められ、人間扱いを受けてこなかったわけですが、この主人公に感じた「私は女だ」という意志を尊重するなら、ファンタスティックもワンダーも似つかわしくない気がしたのです。
「腕っぷしが強く、魔法も使える女が最強」は胸のすくこともあるけれど、やっぱりファンタジーで、それよりも腕力や偏見に依存している男たちをなんとかしなくちゃいけない。
それにこの主人公は、アイアンウーマンになりたいわけでも世界を救いたいわけでもなくて、ただ、私の生き方の邪魔をしないでくれと言っているにすぎない。そういう意味で、ナチュラルに女でいたい、ということなら腑に落ちます。

映画のあと、早いお酒を飲みながら、友人と互いの職場にいる男たちの話で盛り上がりました。根腐れを起こしてんのか、と思うような年下の男の子たち問題です。私は良かれと思ってしたことが仇になるタイプです。水やりの難しさを痛感します。

なんであーなんやろなー、なんでそこに気づかんねん、ほんでなんでなんも言わんと拗ねるねん、こじらせてるよなー、それはどうにもならんへんで、とここぞとばかりに言いたい放題です。
男って、と言っているときの私のジェンダーは棚上げかと思いきや、彼らがこじらせてしまう原因もわかる気もして、思ったことをポンポン言いあってすっきりしました。

ただ、いまだに私は、根腐れを起こした鉢植えを復活させたことはありません。
けれど人は、自分のことは自分で何とかしていくと信じています。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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