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ほぼ毎日仕事帰りに寄る近所のスーパー「ライフ」のレジ接客が素晴らしくて、疲れが少し取れるほどです。
20代から50代くらいまでの男女がバラエティに働いているのですが、みな対応がソフトで丁寧でキビキビしていて最高です。
そんな中、春先にちょっとぶっきらぼうな男の子が入ってきました。
他の人たちが、よどみなく言っている、お箸は何膳おつけしますか、や、刺身醤油はサービスカウンターにございます、などを言いません。
ありがとうございました、もどことなく投げやりな感じ。
なにこの子、とはからずもムッとしてしまいました。

そしてそのことに自分で驚きました。これくらいの接客態度って、そんなに珍しいことではないし、むしろ私が若いころにやっていたことでもあります。
周囲のレベルが高いってこういうことなんだわ・・と改めて実感しました。
それにしても苦情が寄せられそうね、顔は悪くないので私は我慢しますが、とか思っていたら、まもなく彼はいなくなりました。

本屋の店長になって3年になります。たぶん。
遅番のアルバイトスタッフは学生さんが多いので、就活の時期が来たら辞めるため、そのたびに募集をかけて面接をします。最初は物珍しさもあって面白かったのですが、100人近く会ってきた今では、面接をしなければならないとなると、面倒くさい気持ちのほうが勝つようになってしまいました。

求人媒体によりますが、今はスマホから申し込みができるので、20代の人たちがよく来ます。
本屋だからか、おとなしめの人が多い。やはり見るのは、やる気があるかどうかです。やる気がないのに面接に来るのか、と思われるかもしれませんが、2割くらいは「なんとなく来た」感じの人になります。選ぶ権利は向こうにもある。
あとは、本は好きだけど人は苦手と言うタイプが5割、つまり7割の人がここで落選してしまいます。
けれど面接に来てもらったからには一通り面接をしなくてはなりません。
面接を繰り返してきて、そのことがわずらわしくなってきているわけです。

それで気がついたら女の子ばかり雇っています。
なぜ? 私がゲイだから? 男子に厳しすぎるのかしら、と思いますが、一緒に面接する同年代の男性社員もなかなか厳しく見ているので、あまりゲイは関係ないはずです。

同じ二十歳の子でも、男子と女子とでは受け答えに差が出てきます。男子は、ぽわんとしている子が多い。何しに来たの? と途中で思うくらいです。
女子は、こちらが質問したら必要なことを答えてくれます。
個人の資質の違いはもちろんあるし、ぽわんとした女の子もいますが、割合的には、現実に生きていない感じがするのは男の子のほうが多い。
もちろん本好き、というか、マンガ好きが多く来てくれるので、妄想量も関係しているのかもしれません。

これまで何度か採用して派生した問題や、私が店に入る前からいたスタッフの男性たちを見ていて、ひとつの結論は出ています。
客観的に自分を見ようとしない子はきつい。
周囲の女の子たちと通じ合えないコミュニケーションが多くなるのです。そうなると店がうまくまわらなくなります。

面接でそれが見抜ければいいのですが、昔から私は調子のいい男にだまされやすい。嘘やホラをあまり見抜けない。ずいぶん日々を一緒に過ごしたあとに、「こいつ変」とわかるくらい遅い。なので、一緒に面接をする社員にその判断は委ねるのですが、自分でもなにか基準がほしいと思って考えた結果、「服のサイズが合っているか」を見たらどうかと思いつきました。

顔は可愛いに越したことはありませんが、身だしなみが小奇麗であればどんな顔でも可愛く見えてくるものです。40代になってようやくまともな恰好ができるようになった私には、自分の昔の迷走もよく覚えています。あの頃は「自分自分」で仕事を舐めていました。

人見知りじゃない、妄想の世界だけに生きていない、自分に合う恰好がわかっている・・これを見始めたら、驚くほど男子の採用率が狭まってしまいました。
これはジェンダーの問題かしら。

10人くらいの女性たちと働く日々では、それはそれで男性が多い場所とは違ったことに気づかされています。
体調不良で休む割合が男性に比べて多いのは、生理痛や偏頭痛があるからで、女性スタッフたちは、それは仕方ないですね、と納得しあっています。
そういえば、しんどさを我慢することが、「俺イケてる」というアピールにする男性も多いわ、とか。

仕事中の私語に関しても、本屋だから控えめにしたほうがいい、なんて思って、最初はそんなお願いもしていましたが、苦情を聞いたことがないのに、なんで私はそんなことを言っているんだろう、と振り返りました。
なんとなく、女の子たちが楽しみながら仕事をしている風景もいいんじゃない、と、あまりその手のことを言わなくなりました。

店長になったときは、同い年のスタッフの女性から、「もっと、ビシっと言ってやってくださいよ」と若いスタッフに対しての苦言を呈されましたが、怒ったり叱ったりは難しいわ・・と腰が引けました。

考えてみれば今まで私が働いた職場の経営者たちは、大声で怒鳴って威嚇するタイプがほとんどでした。そんなことしなくても普通に会話していればやっていけるんじゃない? と模索する日々です。

唯一男の子がいないと困るのは、万引きした男性を捕まえる時です。女の子に助太刀は頼めないし、暴れる人もいるので、気立てのいい男子を求めて、また募集をかけてみるかと考えています。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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