切れない電話は私を打ちのめした。自分がこの世界に存在していてもいいのか?!
なぜ私はこんなセクシャリティを持って生まれてきたのか?そんな問いを永遠と繰り返してきた私にとって、私の存在を求める“恋人”という存在は常に私が生きていてもいいということを肯定する唯一の存在だった。女として生まれ、女の体を持つ私の体を否定し、私の心に男を求め続けた10代の頃の恋人、Tとの別離の絶望が、受話器を通して聞こえてくるSの言葉と折り重なって蘇ってくる。
“恋人の喪失が自分の存在価値を揺るがすものだなんて何と愚かな考えだろう”
それは自分のセクシャリティが社会によって脅かされない人々の評論に過ぎない。私のカラダ、心、セクシャリティを受け入れ、私を愛してくれる人はもう現れないかもしれない。この世界で私を受け入れる人が一人もいなくなるかもしれないという恐怖。そんな恐怖を味わうことなく生きている今の私なら同じ状況になってもそんな恐怖は覚えない。でも、あの頃の私にはその恐怖はごく身近なものだった。
Tの時と違って、あの頃の私には新宿2丁目に生きる友人がいた。この世で私を受け入れてくれる人などいないということはなかったのかもしれない。しかしこれまで、社会から受けてきた拒絶の闇が、歴史が、真っ黒い影となって、その時ばかりにと、私を襲い包み込もうとしていた。
「アンティルとつきあったのは間違いだったのよね。子どもだってほしいし、結婚もしたいし、頼りになる男と付き合いたいってずっと思ってた・・・・・」
受話器を何度降ろしても消えないSの声。運転しながら余裕と笑みを持って答える男の相づちが聞こえてくる。受話器を上げ、降ろしてもその電話は切れない。私がSを呼んでもその声はけして届かない。それは社会が私に突きつけた最終宣告のようだった。
私は何のためにここに生まれてきたのだろう?!私は誰に求められるのだろう?私は
生きていて意味があるんだろうか?私は・・・・・
私は睡眠薬を多量に飲んだ。
グルグルとした世界が私を包む。窓の向こうの木々の緑がより深い色となって私の記録に刻まれる。『私が生まれたこの風景の中で私は自分を消していくのかぁ。』
ぼんやりと意識が薄れていく。「アンティル!アンティル!」私を呼ぶ声が聞こえる。
私はどこに流れつくのか。私は窓の向こうで揺れる風景を見ながら眠りにつく赤ん坊の頃の記憶の中に引き戻されていった。(続く)
追記
ラブピースクラブの月刊フリーペーペー「SPEAK OUT」でアンケートに答えさせていただきました。毎度バカバカしい話しで、なんの情報もない戯言を書き連ねていますが是非読んでみてください。こんなことを書ける今の自分を、あの頃の私は想像できたでしょうか。なんとも幸せな時代です。
もう一つ、ラブピースクラブの商品の紹介映像制作をアンティル、始めました。ミスティックブルーが第一弾。このコラムがアップされる頃にはアモリーノというバイブの紹介映像がアップされていると思います。こちらも是非ご覧ください!