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「負け犬の遠吠え」

茶屋ひろし2014.08.19

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「中井店長が退任されてから1ヶ月、さっそく売り上げが落ちた」と、会議で社長の口から嫌味が出ました。
売り上げが前年を割っているのは毎月のことで、今に始まったことではありません。6月は、よその書店も軒並み悪かった、という噂も聞きました。
そうした逃げ口上を用意しつつ、私はどこかで、「ヘイト本を減らしたせいかも」と思いました。
中井さんが店を去ったあと、多面展開していた嫌韓・嫌中本を縮小しました。レジ前の話題本コーナーから外し、ビジネスコーナーに面陳していたものは新刊以外を返品して、新刊本も各1冊にして一番上の棚に差します。
そのような特集を組んでいる週刊誌と月刊誌までは1冊ずつに出来ませんが、エロ本と同じように、あからさまなものは一番前に持ってこないようにして、勝手に大量に配本されるムック本の類は少量にして棚に差してしまいます。
段々、営業で来店される産経新聞出版の方の顔が、渋くなってまいりました。
「売れるのに、1冊しか置かないなんて!」とは言われませんが、表情がそう言っています。
確かに、前に取り上げた『恥韓論』という新書は、売り上げから3ヶ月で50冊は売れて、ウチの店の規模ではヒット商品になっています。
新聞広告でも20万部突破の文字が躍ります。
中井さんの指示でジャンジャン仕入れて、レジ前、新書、ビジネスコーナーの三面展開をしていた結果です。
それを新書の棚だけに縮小してから、パタッと売り上げが止みました。
あきらかに売り損じています。
そうは言っても、こういう本があふれている場所ってやっぱり気持ち悪いしね、と、あえて周囲には宣言せずに、こそこそと大胆に棚を入れ替えています。
その分、他の本を売ることでカバーしなければいけません。
まずは、ベストセラーの確保です。
8月は頭から半沢直樹シリーズの新刊の発売がありました。『銀翼のイカロス』(池井戸潤、ダイヤモンド社)で、初回50冊入荷しました。
これは事前に出版社の方から発注数を聞いてくれるというラッキーなケースでしたが、版元が大手になるとそうはいきません。
新潮社、講談社、集英社、小学館、文芸春秋、角川書店、などの大手出版社からは、配本にランクをつけられています。
ウチみたいに1店舗しかない規模の小さい店は、売る実力がないとみなされて、ランクはCとかDとかEとかで、自動的に配本される初回の入荷数は、驚くほど少なく、タイトルによっては配本がゼロの場合も珍しくありません。
確実に売れる商品は、発売予定を聞いたその日から、なんとか確保しようとしますが、たいていの場合、当日まで、ソワソワするしかなかったりします。
予約を取ろうにも、「(一応聞きますが)調整が入る場合がございます。ご了承ください」と言われて打つ手なし、となるからです。
この「調整」とは恐ろしいもので、50頼んでも30頼んでも、入荷したのは2冊というくらい当てにならないものです。
なので、勝負は発売されてからになります。
今回の半沢直樹ですら、50冊は3日でなくなり、それから発注をかけても、「調整中でございます」と手遅れになりました。
そこで頼るのは出版社ではなくて、いつもの取次ぎや、それよりちょっと割高な取次ぎになります。そこにも在庫がなければ、どうするか。
このベストセラーが発売3日目にして、もう3冊しかない。
出版社には、次の入荷は一週間後の重版出来からになります、と言われました。
今すぐ欲しいの。
話題書コーナーの一番目立つ場所に、平(ひら)で3冊って・・、「ペタペタ」と業界で呼んでいる状態です。
ベストセラーが置いていない街の本屋というのは、雑貨に混じって本が垣間見えてカフェも併設されているような全体的にお洒落で何が資本かわからないようなセレクトショップ、以外ではありえないことです。
ここは梅田です。私は近くの大型書店に半沢直樹を買いにいくことになりました。組合のカードを使って、取次ぎから仕入れるよりは割高ですが、定価より安く仕入れることができます。
本屋なのに、自分のところで仕入れることが出来ずに、別の本屋に買いに行く、という心境は、あまり楽しいものではありません。
いつもなら、「ちょっとは遠慮して欲しいものだわ」と思っている大型書店を頼りにするわけです。
店頭には大量に半沢直樹が積まれていました。これが全国規模で・・と想像すると、限りある刷り部数が、ウチに入ってこないわけがわかります。
街の小さな本屋を守る気があるなら、優先順位を逆にして欲しい。
と、もはや誰に向かって吠えればいいのかよくわかりません。
なので、ここで吠えてみました。
ちなみに、『恥韓論』よりも売った新書があります。それは『日本共産党の深層』(大下英治、イーストプレス)という本で、発売後半年くらいで500冊を超えました。赤旗がプッシュしてくれたおかげもありますが、それだけ売った店は全国でもウチくらいだったそうです。
その次に出た同じ著者による、『公明党の深層』は3冊しか売れませんでした。同じく内容が対象を褒め称えたものだったからです。公明党への批判本なら売れたのに・・。
ヘイト本を捨てたとは言え、下世話なことからコツコツと、やっていくしかないようです。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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