楽しかったLA旅行が終わった。楽しい旅行は私たちの距離を縮め、2人でいることの楽しさを教えてくれた。スーツケースにはレイボーンお薦めのディルド&ハーネスも入っている。
S「私、2年後にはロサンゼルスに住みたいの」
Sは真剣にそう言っていた。私は仕事をどうするか?親になんと言うか?そんなことを必死に考えていた。私にはSとの未来しか見えていなかったのだ。
またいつもの夜がやってきた。変わったことはといえば、Sが本格的に英語を勉強し始めたことくらいだ。深夜にSを迎えに行き朝まで飲んで、数時間寝てから仕事に行く日々。しかしLAの日々が私を楽にしてくれた。『何があっても大丈夫。Sとはいろんなことを乗り越えて未来を築けるはず。』きらきらとしたLAの日々が支えだった。
そう、あの日までは・・・・・
ある夜、Sを迎えに行くとSの姿がなかった。片付けをするバーテンにSはどこに行ったのかと聞くと、知っているとも知らないとも言えない返事で慌ただしく帰り支度を始めた。『おかしい・・・』私の危険察知レーダーがグルグルと回っている。
アフターなら、他の女子も誰かしら一緒に行くはず。でも今日はS以外のすべての従業員が店にいる。
私「ママ!Sはどこに行ったの?」
ママ「う・・・・ん ちょっと飲んで帰るって言ってたと・・・思うよ」
私「お客と?!」
ママ「・・・・・・・・・」
私は馴染みの店を片っ端から廻ってみた。この時間ならSが自分の家に帰るはずはないからだ。探し始めて3時間。朝が始まりかける時間だ。
『S~どこにいるの!』
私の危険察知レーダーは鳴り止まない。たまに客と行くとSが言っていた2丁目にあるゲイバーではないBARの扉を私は開けた。爆音でクラッシックロックをかけるショットバー。朝9時まで閉店しないその店には大きなカウンターがある。客の姿は暗くてよく見えない。踊る人をよけ、店の中に入り、カウンターに座る人の顔の中にSがいないことを祈った。なぜならそのカウンターには男女のカップルしかいなかったからだ。
『Sがここにいないように』しかし、その願いはすぐに破られた。
見つめ合い、何度もキスをするサラリーマンとS。あの時の男だ!クラブ・グレーズでいちゃついていたあの男だ!2人と私の距離2m。私は無意識に2人に近づいていた。
「はっ!」
Sが驚きの声を上げて私を見上げた。
私は走って店を出た。Sは私を追わなかった。
涙が止まらなかった。『なんでSはあの男とキスをしてたの?!』
人目を忍ばず泣きはらす私の顔を、出勤する人達が怪訝そうにのぞき込んでいた。
2時間後、Sが帰ってきた。かなり酔っていて真剣な顔をしたくてもできないという顔をしている。
私「なんで帰ってきたの!」
振り絞るように出した私の声にSは応えない。Sは寝ていた。
Sが目を覚ましたのはその日の夕方だった。
S「ごめんね・・・」
私「もう耐えられない。もうクラブ・グレースやめて。じゃないともう付き合えない」
S「・・・・・・・・・・」
私は今のままの生活を続けられないと訴えた。
S「じゃあ、どうやって生活しろっていうのよ!」
私「私が生活費出すよ!だからやめて!」
その日から私は給料の3分の2をSに渡すことになった。
仕事が終わり家に帰るとSがいる。酔っ払っていないSがいる。カラダはクタクタでも安心できる日々。しかし、Sの目はどんどん死んでいった。
このことを思い出すと私は胸がいたくなる。あの時は自分の間違いに気がつかなかった。辛いのは仕事以外にアルバイトもして寝ないで働いていた自分だと思っていた。私の中に“男”がいたのだ。そして今もその“男”が心の中にいやしないかと恐れることがある。
S「もう無理。私働きたい。」
Sは夜の街に帰っていった。