Sとの恋愛生活が本格的にスタートした。Sは建築会社で9?5時で働く技術職。私はというと午前9時から朝4時なんてこともざらにあり、お昼出社で翌日の夜帰りという驚異の36時間労働というのも珍しくなかった。しかし恋にのぼせていた私はとにかくSに会いたい!夕方に仕事を抜け出し、また戻り、抜け出した分の穴埋めをするために睡眠時間を削って気がつけば睡眠時間1時間、という生活を送るはめになっていた。その頃の写真を見ると今の私の3分の1程度の厚さしかないひょろひょろ人間であった。
=ちょっと余談だが、最近私はダイエットをしている、LPCが経営するエステサロンオリーブのスーパーカウンセラーEさんの指導のもと、着実に痩せ始めているのだ。それは、夜8時以降は食べないダイエット!これが面白いように成果が出る。やると決めたら突き進むタイプのため頑なに、Eさんとの約束を守る日々を過ごしている。しかし、少しずつ痩せ始めている私に若干1名、苦々しく思っている者がいた。それはパートナーだ。太っている豚という意味のニックネーム、デブタなんてネーミングをして馬鹿にしていたくせに、私が痩せるのがどうやら嫌らしい。昨日など私の口を無理矢理開けさせ、チョコレートを押し込むという強行に及んだ。私がチョコレートを吐き出すと、「かなしい」と意味不明なことを行って寝室に消えていった。しかし私は負けない!けして負けない。(終)=
そんな生活を始めて1ヶ月。Sの会社が倒産した。職をなくしたSは夜のバイトを始めたいと言い出した。どうやらSは以前にもその経験があったという。しかし、お母さんと同じ道を歩きたくないという理由で、バイトを辞めていたらしい。
Sはお母さんと2人暮らしだった。Sのお母さんは、都内で最も歴史のある有名キャバレーの看板ホステスだった。大箱と呼ばれる、百席以上もあるお店で生のバンドの音楽が鳴り響くキャバレーで、Sの母の名前を知らないものはいなかった。Sはそんなお母さんの背中を見ながら育ってきたのだ。とは言っても、夜の仕事を軽蔑して“同じ道を歩かない”選択をしたのではなく、ただ、昼間に働く仕事がしたかったとSは言っていた。早く働きたいというSに私は、ちょくちょく通っていたクラブをSに紹介した。
クラブ「グレース」。「グレース」は、会社の接待で使うサラリーマンで賑わうクラブだった。着物をバリッと着こなし、話術が巧みなママはレズビアンだった。従業員は6人ほど、そのほとんどがこれまたレズビアンだった。客には誰も興味なし!男=金。嫌な客とは喧嘩上等!気をつけなければいけなかったのは従業員同士の恋模様。これほど健全なクラブは他になかった。
私もSが他のお店で働くより数倍、安心だった。午前3時までの営業。私も午前1まで仕事を上げるスケジュールを組み、クラブ「グレース」でSの仕事が終わるのを待っていた。しかし、そんな喜びが続いたのは2週間。のちにクラブ「グレース」は私とSの関係を大きく変えていくことになるのだった。