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「ときめきなさい」

茶屋ひろし2013.08.05

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暑い陽ざしに耐えられなくて日傘を買いました。メンズです。阪急百貨店の紳士服売り場の片隅で売っていました。折りたたみとそうでないのとあって、色もベージュ、紺、グレー、黒と、わりと揃っています。ただ、値段が五千円と一万円のしかありません。
もう少しメンズに浸透すれば、バリエーションが増えるかもしれません。それともここは百貨店だから? 五千円にしておきます。
広げてみてその質感に驚きました。UVカット、遮光率ともに99.9パーセントの生地がまるでテントのようです。60センチメートルの幅も十分で頼もしい。
日傘といえば、例え黒でもフリルやレースのふわふわしたイメージを持っていたので、ジェンダーに惑わされていたのかもしれません。レディースの延長というより、登山の装備みたいです。それを知って、街中の日傘を観察してみれば、女性が差しているテント日傘もちらほらありました。雨天兼用だからかもしれません。
心なしかフリルより大きく見えます。
「腕のところをカバーできていない日傘が多くないですか」と書店のスタッフがつっこみます。彼女は日傘未経験だそうです。一人で山に行くのが好きというだけあって、普段もスポーティーな装いからすると、フリル日傘よりテニス選手のような帽子が似合いそうです。店頭で日傘を広げるたびにちょっと恥かしくなるそうです。日傘ってキャラクターを決めてしまうかもしれません。
「あれじゃない、ほら、どしゃ降りの時でも頭と顔さえ濡れなければ意識は保てるっていうか、投げやりにならずにすむ、っていうか、それくらいの効果なんじゃない?」
と答えてみましたが、フリル日傘は見た目と軽さが優先された形だと思われます。
テント日傘は雨傘に比べて少し重い。これでも軽量化されているとは思いますが、なんでも薄くて小さくて軽くなる世の中なので、この先どんどん軽くなることが期待できます。
それにしても、こんなに日陰ができるなんて。
くっきりはっきりした光の中で、日傘を差し始めてからは、すれ違うワイシャツ姿の男性たちを横目に、あなたたちも差せばいいのに、と思うようになりました。
「朝の御堂筋で先駆けになるわ」と別のスタッフに宣言してみましたが、彼にはピンと来ないようでした。
それこそ、ワイシャツ、スーツの営業マンが日傘を差し始めたら、目に見える変化と言えるかもしれませんが、私服で通勤している私が差したところでたいした影響はなさそうです。けれど炎天下のなか上着もはおって、たいして汗をかいていない人をみると感心します。女優は顔だけ汗をかかない、とか、舞妓はんか、と都市伝説のような職業体質を思うからです。うらやましいような、そこまでなりたくないような、厳しそうな世界です。
先日は通勤途中の満員電車で、人が倒れました。ごと、と鈍い音がして、うわ、という男性の声に振り向けば、床にワイシャツ姿の男性が横たわっていました。隙間もないほどの込みだったのに、そのまわりだけスペースが出来ています。しばらくして意識を取り戻した男性に、声を挙げた人が手を添えて、座っていた人が立ち上がり席を譲りました。眉根に指を当てたまま前かがみで座った様子を見て私は姿勢を戻しました。過労だわ・・、と、それが本当かどうかはわかりませんが、40代くらいの風貌にそう思いました。
『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのだろう』というタイトルの本がありますが、朝も夜も込み合う電車に乗りながら、そのフレーズを思わない日はありません。
このコラムを読んでくれている友人は、「社員で八時間労働は無理やで。それはありえへんわ」と現実を言います。前回の選挙で、建築会社に勤めている彼女のダンナさんは、原発は危ないと思うけど、景気が良くなってもらわないと困るから、ということでアベノミクスに投票した、と言っていたそうです。
友人夫婦が建てた家に遊びに行って、中学生と小学生の子どもに会って、ダンナさんは休みだけれどゴルフに行っていて、家のローンと、二人の子どものこれからを思えば、それもしかたないか、とうなずきました。私はいつでも現実に負けてしまいます。
日傘が欲しいと言い出した私に、「今は熱中症とか皮膚ガンとか言って危険ですからねぇ、男の人でも差したほうがええと思います」と賛同してくれていたスタッフの女性は、日傘は普段使いで、「直射日光を遮るだけでもずいぶん違いますもんね」と現実的です。
その彼女がよく、「あの人、田嶋陽子に似てません?」と、近所の人のことを言うので、「そうですね」と返しながら、TVタックルを見ているのかな、と思っていたら、こっちでやっている、やしきたかじんの番組に、田嶋先生がレギュラーで出演されていることを知りました。タックルには今も出演しているのでしょうか。どちらもずいぶん見ていないので、懐かしい感じがしましたが、そのたかじんの番組を見てまた驚きました。
肝心のたかじんは入院しているらしくその場にいませんでしたが、パククネ大統領の、「日本は正しい歴史認識を持つべきだ」との発言を、暴言とする番組で、田嶋さんだけ「パククネが正しい」という意見を述べていて、最近テレビに出てきた皇族の男に、「だったら韓国籍になればいい」と暴言を吐かれていました。そこにいた他のコメンテーターも津川雅彦を始め、ほぼ嫌韓で、日曜日の昼下がりがいつのまにこんなことになったのかしら、と驚きました。これは関西の視聴者が求めていることなのでしょうか(右傾化だわ・・)。現実に負けている場合じゃないかもしれません。
ある朝、書店に入荷した、厚紙でできた「プリキュア」の絵本を見ていると、変身した(ドレスアップした)女の子が、「ジコチュー」という名前の敵に向かって、「ときめきなさい!」と攻撃していました。「お仕置きよ!」のセーラームーンから進化しています。
ときめいたら負けなんだわ・・、と、誰も不幸にならない話にときめきました。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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