ちょっとまえに友人からフェミニストのミュージシャンってどんな人がいる?問われ、すぐに名を挙げられたのがトレイシー・チャップマンとアーニー・ディ・フランコくらいだった。10年前にこの連載をしていた時にとりあげたMR.Ladyというインディーズのレーベルに所属した女性たちは〈Feminism is a political analysis of society and not a counterculture〉と自前のサンプラーCDのジャケットにかかげ、非人種差別主義で現在の資本主義をグッドではないとし、ポリティカルな視点から目をそらさない主義主張をもって活動していた。
折しもライオット・ガールズといわれるガールズロック・ムーブメントと融合し、この洗礼を浴びてフェミニストになった人も少なくないのではないかと思う。だが2004年このMR.Ladyは解散。主要なアーティストたちはそれぞれに地道な個々の活動へ。しかし2012年モスクワで結成され見せしめのように逮捕されてしまったプッシー・ライオットや、インド北部ジャンムー・カシミール州で結成された女性初のロックバンド、プラガーシュ(宗教的弾圧を受け数か月で活動停止を余儀なくされ解散)に、ライオット・ガールズの灯火は受け継がれた。
しかし大ワクで俯瞰すれば悲しいかなこのガールズムーブメントは世界の音楽界からみればまだまだマイノリティであり、ある程度の音楽ファンならだれもが知っているような女性アーティストのなかで、MR.Ladyのような信念をもって活動している若い世代の女性シンガーソングライターは、となるとなかなか思いつかないのだ。
90年代以後、k,d.ラングを皮切りにレズビアンまたはバイセクシュアルをカムアウトするミュージシャンはいまや珍しいことではなくなった。むしろそこから国際的に人気を博す要因ともなるように思える。しかし彼女たちがフェミニストか、と問われるとこれもまた・・・・と考えてしまう。かたや88年に反核の政治デモで逮捕された瞬間の写真をジャケットに使用し衝撃を与え、マッチョな男ミュージシャンへの皮肉と揶揄を込めたプロモーションビデオでフェミ的魅力がかっこよかったパンクフォークのミシェル・ショックドという女性シンガーは、昨年サンフランシスコでのライブで同性愛者に対するヘイトスピーチを噛ましがっくりしたものだ。
人種や戦争や性的な社会問題に対してポリティカルなメッセージソングを歌うミュージシャンはたくさんいるが、自らフェミニストと公言するということはもしかしたらセクシュアリティをカムアウトすることよりもリスクがあることなのかもしれない。それがなぜなのか・・・、今の時点ではまだ私の探求不足で言葉にならない。
そんな折、DJ&サウンドアクティビストとして海外でも多くの仕事をこなす友人から、おもしろいフェミニスト・ミュージシャンを教えてもらった。その名はプランニングトゥロック(PLANNINGTOROCK)。Jam Rostronなる女性アーティストのステージ名がPLANNINGTOROCK。イギリスのエレクトロニック・ポップ・ミュージシャンだが、いまはベルリンを拠点に活動している。本名はJanineだが、ノン・ジェンダーの名にするためにJamと変名したという。
彼女のサード・アルバム“ALL LOVE’S LEGAL”がリリースされたばかり。彼女はフェミニストであることをきっぱりと公言しているという。アルバム表題曲をはじめ〈Let’s talk about gender baby〉、〈Misogyny Drop Dead〉〈Patriarchy Over & out〉といった直球の曲名が並ぶ。80年代のイギリスで一世風靡したイレイジャー、ブロンスキービート、ソフト・セルなどのゲイのエレポップグループが打ち鳴らした翳りのある打ち込みサウンドに影響を受けているのではないか。聴いただけでは判別不能なソウルフルなボイス。日本ではすでにマニアックな部類とおもわれるサウンドなのでやや奇をてらった感は否めないけれど。きっとベルリン周辺のフェミやLGBTたちでむせかえるような熱気あふれるクラブやパーティではこのPLNNINGTOROCKがかかると盛り上がるんだろうなぁと想像し、日本でもフェミ・オンナたちが集うイベントやクラブやお店で、じゃんじゃんとかけてほしいフェミ・ポップだ。