奥さんの暴力と罵倒と脅迫(自殺ほのめかし)によってがんじがらめに支配されている男性の話を聞いた。奥さんは絶倫。結婚したばかりの頃はちんちんが勃たないのに1日3回を強要され、拒否すると窓から飛び降りようとする等、警察が出動するレベルで大騒ぎするという。拒否するよりも、ちんちんを無理矢理でも勃たせたほうがマシなので、奥さんから強姦を受ける形でセックスに応じていたという。
その奥さんは、今まで聞いたことのある「すごい女」の中で飛びぬけてキてる女の人だった。私の母も「大暴れを武器に娘を支配型」の女だけど、この奥さんには及ばない。リアルタイムで本人と結婚中の男性から生で聞いたのも臨場感がハンパなかった。
奥さんは、セックス以外でもすぐキレて、暴れて、絶対に自分の思い通りにするという。そのやってることが「わがまま」とかそういうレベルじゃない。その男性の人権が奥さんの中で存在していない。男性が「それでもあいつは可愛いやつなんです。俺がいないとダメなんです」と言ってるなら分かりやすいが、家庭内での自分の人権を踏みにじられる状態に完全に屈し諦めているように見えるのが絶望的だった。私は、自分が体験した「被支配」の上を行く話を聞いて、ゾクゾクしていた。血がわきたち、体が熱くなる。男性側に感情移入して恐怖を思い出すよりも、自分の中に、その奥さんと同じ血液が流れていることをビンビン感じていた。
私はそんな風に人を、支配しようと思えばできる、と思った。やり方を知っている。夫という立場の人を追い詰めながら、離婚はさせず、サンドバックにして、怨念のゴミ箱として利用する。それを実行したら自分が不幸だと思っているからやってないだけで、やり方は知っている。奥さんに対して味方はできないけど、ルーツを辿っていったら、私はきっと奥さんと同じ種族出身の女だと思った。
男性は、その荒んだ生活と人権をボロボロにされている精神状態が現れているかのように、ドロドロが見た目に出ちゃっている。太っていて、皮膚も髪の毛もだらしなく伸び、お世辞にも「女にモテる」とは言えないルックス。奥さんが執着する理由は一見分からない。だけど私は奥さんと同じ種族の女だから、その悲惨な話を聞いているうちに、だんだんその男性が魅力的に見えてきてしまった。「ああー、分かる…見える…。この男性なら自分のすべてを吸い取ってくれるから心地いいだろうなあ…」と、ワクワクし始めた自分がいた。急に男性に吸いついて行きたくなる感覚。こういう出会いは「磁石のS極がN極を見つけた」ってそんな相互的なものじゃない。飲み終わったジュースの空き缶をずっと持って歩いていたら手がベタベタしてきて早く捨てたくてイライラしている時、コンビニに設置されたゴミ箱を見つけた、そんな感じ。男性は女というもの自体にもともと興味がないので、ヒドイ目に遭っていながらも、浮気不倫願望(他の女に癒されたい気持ち)は一切ないと言っていた。その点だけは、やたらキリッとクリアな瞳で言い切るので、またグッときた。「あなたはモテますよ! もっと積極的に他の女を探してもいいと思いますよ!」って言いたかったけど、それは奥さんとか私みたいな女にだけだから、男性にとって有利な情報ではないのでグッとこらえた。
私は今まで自分のことを、「『俺様気質』がある男じゃないと付き合えない服従型の女」だと思ってた。だけど、自分の支配気質が全面に出ないように、敢えて「表面的な俺様タイプ」を無意識で選択していたのかもしれない、と思った。自分は「被支配側」気質の人間だと思っていたけど、そう思いたいだけ、そうであれば「私は支配していない」と思えて落ち着けるので、逆に支配されている風の態度を相手にとってもらうように、私のほうが無意識で相手を操作していたのかもしれない、と思うほど、男性の話を聞いていると自分の中の「支配気質」を感じた。
男性は「子どもが生まれてから、奥さんの暴力、罵倒の矛先が子どもに向いたので、自分のつらさが緩和された」と、すごい発言をした。それは最悪の事態だ。だけど、男性側の話を聞いてると、ひとまずよかったね、としか思えない。そう言いたくなるほど、本当にひどい目に遭っている。でも、その家庭内の状態はまったく全然よくないわけで、その点に関しては呆然としてしまった。
私の両親も、私が小さいときは夫婦仲が最悪で、ものすごい喧嘩をいつもしていた。だけど私が大きくなって母とやり合うようになってから、父は我関せずになった。高校生になった私は、何かと因縁をつけてくる母と取っ組み合いの喧嘩を毎日しながら、昔、母の頬をひっぱたいていた父のことを思い、「お父さんもこんな気持ちだったんだ。この人相手じゃ、ひっぱたきたくもなるよね」と、心の中で父との結びつきを感じていた。当の父とは会話もしたことがなかったし、私と母がどれだけ大騒ぎしても父は自分の部屋から出てこなかった。
あれは、私が父の代わりにスケープゴートとなって家庭崩壊の危機を救っていたんだ、と男性の話を聞いていて思った。母から噴き出す「何かへの怒り」を私が一手に引き受け、吸い取ることで、父の精神を救っていた。母の精神安定も保って、2人が離婚しない状況を保ち、そのことで母の経済力も保たれる。私は母から罵倒されることで、家庭内の全ての役割の要になっていたんだと思った。父は無口でシャイな性格だから、娘と何を話していいのか分からないのだと思っていたけど、そうじゃない。イヤなことを娘に押し付けている立場だから、娘に対して何も言えなかっただけだと思う。それで、母からは「うちは離婚してない家だから、幸せでしょ。こんな幸せな家庭で育ててもらって感謝しなさい」と恩を着せられるのだった。母から噴き出す「何かへの怒り」を軸に形成されていた我が家。私は最近、父と母ともう離れたから、二人のことを許せているというか、直接的なうらみがなくなり、一時持っていた父に対する「素晴らしい男だ」という幻想もなくなった。だけど男性の話を聞いて、まだまだ父のことを良いように認識していると思った。「子どもに矛先が向いてしまっている奥さんを持つ男」を大人の視点から見ると、想像以上にしょうもなかった。認めたくないけど、私の父も「自分が受けて処置すべき妻からの毒を子どもに吸い取ってもらって生きてた男」なんだ、って思った。
だけどそういう“しょうもない”男性を、男として魅力的に思う自分もいるわけです。母の血も混ざっているから。DNAの逃れられなさにクラクラした。