彼女達と出会ってない歳月より、彼女達と出会ってからの年月が遥に長くなった私と彼女達。10人前後の同い年グループの私達の結束は、卒業して、それぞれが就職した頃に結ばれた。旅行に飲み会にクリスマスパーティー・・・いろんな所に行き、話し、笑った。私達のグループの名前はアマゾンズ。今ではそのネーミングの理由は薮の中だ。
20代中盤頃、アマゾンズは年々全員で集まることもなくなっていた。“◯◯に彼氏が出来た”そんな話題が増え、アマゾンズの会は私を入れて5人ほどのメンバーが年に数回参加する程度のものとなっていった。唯一全員が集まる時のは結婚式くらい。20代後半にはほとんどが結婚していき、既婚組と既婚+子持ち組に分かれ付き合いを続けていた。そのどちらにも属さない私を含む数名は、共通の話題を持てず、次第にアマゾンズの面々とは疎遠になった。
週末の繁華街、42歳になったアマゾンズのメンバーが集結した。20年以上前、私達がいつも待ち合わせ場所として使っていたその場所に集まった9名のおばさんと、“20代のオトコ風”の謎の1名。アマゾンズの集団は雑居ビルを目指し歩き始めた。
予約したのは掘りこたつがある個室。
「B子向こうに入りなさいよ」
「C子行きなさいよ!」
なかなか見ることのない不思議な光景に私は首を傾げながら奥の席を陣取った。「奥に入ると出にくいから嫌なのよ」
いっこうに席順が決まらない。立ったまま小競り合いをしているのだ。
「私すぐ、トイレ行きたくなっちゃうからあんた入ってよ。」
みんなの目的は一つ、トイレに近い席を奪いあっているのだ。
結局、出口に近い所に人がひしめき合う不均等な並びで落ち着き、アマゾンズの集会が始まった。
「カンパーイ」
息子のために毎日4時に起きて弁当を作るという幹事、A子の声と9人の声が部屋に響いた。
10人中、未婚は2人。離婚して高校生の子供がいる人が1人、あとは既婚で中学生から高校生の子供を持つ母親だ。結婚して仕事を続けたのは1人だけ。あとはスーパーやコンビニでパートをしているという。
子供の成長ぶりや夫の仕事の話し、カラダの変化といった近況報告で盛り上がりながら、ジョッキのお酒はみるみる空になっていった。20代の頃と違って子供を持つものもそうでないものも同じように笑え合えることがうれしかった。20数年前経ったと思えないほど、あの時のままの笑い声。しかし、歳月は着実に私達に年を刻んでいた。
私「ねぇ、みんなFACE BOOKとかTEITTERとかやってないの?」
みんなをネット上で探そうと、iphoneをいじりながら私が質問すると、狭い個室から笑い声が消えた。
私「FACE BOOKかTEITTERのアカウント教えてよ」
A子「何?FACE BOOKって?」
他「なんか聞いたことあるけどね・・・」
ザワザワ
B子「私、見たわよFACE BOOKの社長。あの人、学生の時からすごかったんだってね。ニュースでやってたわよ。でも最近、社長がよくテレビに出るわよね、ジャパネット高田の社長とかさ、そういえばこの前通販で・・・・」
FACE BOOKのいつの間にか通販の話しになっていた。
みんなはどんな世界で生きているのか次第に興味が湧いてきて、私は質問を続けた。
私「あのさ、今さ、“いかちー”って若い子言うじゃない。学生の子達とか、C
子とかD子とか年頃の息子がいるから知ってるでしょ?」
C子「そんなの知ってるよ!こういう人でしょ!!!」
C子はカラダを大きくして見せるポーズをとって私に誇らしく答えた。
私「それ、もしかして“いかつい”じゃない?」
C子「・・・・・・」
つっぱり、衣紋掛け、膝掛け、ばったもん・・・・私達の会話には死語が溢れていた。夜も更けて酒の勢いが止まらなくなった頃、向かいに座っていたC子
が突然私の頭を指して言い出した。
C子「あのさ、アンティルの髪型ってどうなってるの?」
右と左の髪の毛の長さが違う、今流の髪型をしている私の髪型にC子は釘付けになったのだ。
私「今の流行だよ。ほらこっちが短くてこっちはこんなに長いんだよ。ジェルしてるからまだこの違いわかんないかもしれないけどさぁ」
C子「それ、おじさんの8・2分けってこと?」
私「・・・・・」
C子「寝起きとかどうなるの??右だけ長くて左が短くてどんな髪型になっちゃうの???」
C子の興味心は帰り際まで続いた。
C子「今度寝起き見せて」
終電が近づく時間になった頃、みんなが帰りたくないと言い出した。
「今日、だんなが帰ってこなくていいっていってるからどっか泊まっちゃう?」
「うちも、咳が止まらないとか言ってるけど、私がいたって同じだから、いいよ」
4時起きのA子も、DVを受けて早くに離婚し一人で息子を育てたF子も、病気続きで薬が手放せないD子も、結婚願望がだれよりも強かったのに今は独身がいいというG子も、“女だから”“母親って”とか、つっこみ入れたら切りがないほどジェンダーコードにまみれの会話をしてたけど、私は彼女達がいるその時間に20代後半に感じた寂しさを抱くことがなかった。
“だれかのために帰らなけゃ”
そんな事を言い出す人は誰一人なく、この時間を永遠にしたいと思っている心が見える夜。あまりに違う時間を過ごしてきた10人だけど、その時間の果てに私達はまた集まった。歳をとることは案外楽しいことかもしれない。心から笑い合えることができるアマゾンズの中に自分がいることに私は少しにんまりしつつ、月夜を歩いた。
別れ際、一人が
「次回のアマゾンズの会合の日を決めよう!」
と言い出した。
「そうだ!そうだ!」
予定を確認しようと私以外の全員が携帯ではなく、鞄から手帳とペンを取り出し、同じポーズで手帳を広げた。
私「みんな携帯使いなよ!」
F子「紙が一番信用できるのよ!」
みんなの笑い声が夜空に星を作るように伸びていった。