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受験のような出産

2011.11.17

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 妊婦講習会に行っても、関連本を読んでも、とにかく「母乳がいかに優れているか」という話が多い。赤ちゃんへの栄養はもちろん、産後の伸びた子宮を縮めるのにもいいらしい。更に赤ちゃんに夜起こされても、母乳ならその場でパッとあげられるという。
 それを聞いて「そうなんだ、じゃあアタシ母乳にしま~す、出しま~す」って思ってんのに、まだ「本当に母乳がいいんです」、「母乳が出る穴を開通するための乳首マッサージをするべきなんです」と、延々と聞かされる。
 これだけ言われるということは、『母乳出すためのビーチクの穴開通』が結構大変なことで、そして出にくい体質の人もマッサージすれば出るようになるから、それで出るようになるなら絶対に出したほうが良い、ということなんだろう。
 「ビーチク開通マッサージ」はなんだか痛そうだし、適当にやったら気持ちよくなってオナニーして終わりそうだから妊娠6ヶ月の私はまだ取り組んでないけど、いつか本気(マジ)でやろうと思ってる。でも、粉ミルクだったら夫もお乳をあげる体験ができるし、母乳が出なかったら出ないでいいや、とも思う。
 先日行った、区が主催している妊婦のための母親学級でも、母乳についての講習があった。
 40歳くらいのすごく美人な助産師が、ディズニーランドの従業員ノリで「母乳が出るのは赤ちゃんにとってもお母さんにとっても良いんです☆ 母乳って、どんなイメージがありますかぁ~っ?」と楽しそうに話していた。
 1時間ほど“母乳出まくるビーチク、最高です!”なトークをほがらかにしたあと、最後にサッと声のトーンが低く小さくゆっくりになり、こう言った。
 「……でも、赤ちゃんが小さめだよ~とか、母乳が出にくいよ~ってお母さんとか、他にも、赤ちゃんが特別な病気を持っていて、吸い込む力が弱くて飲めないよ~っていう場合などは、母乳で育てられない…ってことも、あるんですね………。…そういう場合は…、粉ミルクを作るという選択がありますので…っ、粉ミルクのつくり方は、私たち助産師や、保健所のスタッフに…気軽にね、聞いていただければ…。なんの問題もありませんので…っ。決してね、一人で抱え込まないで…ッ! 絶対に、一人で悩んだりしないで、本当に気軽に、言っていただければ…と、思いますッ!」
 そう締めくくった。
 なんか怖い怖い、怖いよ~! 母乳出ないとか、母乳飲めない赤ちゃん生んだりしたら、そんなに? そんなに抱え込んじゃうもんなの?
 母乳が出ないお母さんには、よっぽどのことがあるんだろうな…(ノイローゼからの自殺未遂とか?!)助産師さんはいろんなケースを身近に見てるからこんだけ深刻になっちゃうんだ! ということしか伝わってこなかった。「母乳が出るお母さんとゴクゴク飲む赤ちゃん」は明るいオレンジ色で包まれ、逆に「吸い込む力が弱い赤ちゃんに粉ミルクを飲ませているお母さん」は青白く冷たい部屋でゲッソリしていて追い詰められているというイメージが、バーンと頭の中に浮かんだ。このイメージは、必要なものだろうか?
 「こうしたほうが便利だよ」と教えてくれるだけで充分なのに、一部の知識者は、「もしこうなったら大変です! そうならないために…」というスタンスで語ってくることが多い。妊娠・育児に「圧倒的な理想形」を存在させて、その理想形にいかに近づくか、という話し方。それは「努力をすれば理想形に近づける」という風にしか聞こえなくて、結果的に“理想形”じゃない状態になった人は「報われなかった人」みたいな印象になってしまう。妊娠や育児がとたんに「受験」っぽくなる。受験は勝ち負けだから「落ちた時のこと」なんて考えず勉強に邁進すればいいけど、妊娠・出産はそういうことじゃないと思う。だけどなんだか一部の知識者が先に回って「“アッチ側”の人のことはね、まあ、別として…(ヒソヒソ)」みたいな雰囲気をムンムン出している。

 同じ区の主催の母親学級で聞いた栄養士の講義は、更にキョーレツだった。40代後半と見られる女性の栄養士はまず、集まった30人ほどの妊婦に「あなたたちはこれから出産して人口を一人増やすんだから、社会に貢献しているんですよ!」と言った。そのセリフにビックリしすぎて前後がどんな流れだったのか忘却してしまうほどだ。
 話している内容は、「主菜と副菜をバランスよく食べましょう」とか中学校の家庭科の復習のような基本なのだが、「度胸をつけて下さい! 子供を守るのはあなたたちだけですから! 『母は強し』になる時期なんですよ!」といちいち付け加える。しかも本気スパルタモードではなく、笑顔で冗談っぽく学校の先生口調で言うのが恐ろしかった。
 「これからあなた達は子供を20歳まで育てる責任があるんです! 子孫を優秀に残してくださいよ! もういま、お腹の中で成長は始まってるんです、子供が健康で長生きするかどうか、みなさんにかかっているんですよっ!!!」
 衝撃的な単語を飛び出させて楽しげに白熱する栄養士。
 「食事を気をつければ、スリムでかっこいいご主人が維持できます! あなたと結婚したことで、家族全員が高血圧になるか、長生きするか、今からあなた達がどう食事を作るかにかかってますからね!!」
 『ご主人』の健康の全責任を負わされ、終いには「今のあなたの行動が、子、孫の代までの食生活を決定するんです、つらくても今、がんばってくださいよぉ!」と言われ、「もうやめてぇええ!! 結婚して妊娠したからってなんでそんな責務負わなきゃなんないのよぉぉぉ!!」と泣き叫びたい衝動を、ため息で抑えた。
 妊娠中って、自分の中に存在する差別や偏見を取り除くのに一番適した時期なんじゃないかと思う。
 今まで健康に生きてきた、“健康強者”側の人も「生まれてくる子がどんな病気を抱えて出てくるか、そして生まれてからどんな病気になるか分からない」という不安を持つ。自分が事故などで障害者になる可能性とはまた違う、病気や障害を持った人の親になる可能性というものが、身を持って人生に現れる初めての瞬間だ。それまでハッキリしていた「健康強者と弱者」の間の境界線がユルユルになって、境目がなくなる感覚がある。
「アッチ側に行ったら、どんなことになっちゃうのか」
 “アッチ側”のことをよく知らないからあまりにも怖くて、だけどそれ以上に自分の子供に会ってみたいから、最終的に「どんな子でも受け入れっか」という、ある意味「どうでもいいや」というところに達する。それに、出産や育児が、自分の努力でどうにかなるようなそんな融通の利くものじゃないっていうことも薄々分かるから、そんな大自然に立ち向かおうなんてこと自体、ばかばかしいような気がしてくる。 

 妊娠中に、体が弱い人の生活や親子関係を自分のこととして考え、そういった情報も得ることができたら、これからの偏見なども少しは減るような気がする。だけど実際は逆で、妊婦生活では毎日のように「健康強者と弱者」の線引きをゴリゴリと植え付けられているような感じがして仕方ない。社会の偏見や差別を生み出すスタートラインは、この『妊娠中』なんじゃないだろうか? とすら思っちゃうのである。
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