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松田聖子以上のタスクを背負わされたアイドル・木村拓哉を、遅ればせながら応援します

高山真2014.07.07

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 7月に入り、新ドラマが次々にオンエアされるわね。個人的には、フジテレビが3本も自局のリメイクをやることに驚いているのだけれど。

 妻夫木聡や瑛太などが出る『若者たち』は、なんと48年前に、田中邦衛主演でオンエアされていたものだそうよ。あたくしもさすがに生まれる前のことだから、このドラマがどういうものなのかわからないわ。『GTO』は、EXILEのAKIRAが主演するバージョンとしてはセカンドシーズン的な位置づけだけど、もともとは反町隆史が主演したものよね。

 で、『HERO』は、木村拓哉が2001年に主演した連続ドラマを、本人主演でもう一度やるわけね。13年ぶり2回目。って、なんか高校野球か昔の紅白みたいな響きだわ。若い方はご存じないだろうけど、20世紀の紅白歌合戦は、歌手が歌うとき、画面に「3年連続3回目」とか「5年ぶり3回目」といった情報がテロップになって出たものなのよ。そんな昔の紅白に敬意を表して、今回の木村拓哉の『HERO』、あたくしは『HERO2014』と表記することにいたします。『さそり座の女2009』(美川憲一)とか『古い日記‘03バージョン』(和田アキ子)みたいなのと同じ系統だと思ってくださって結構よ。

「なんかバカにしてる」と思った方もいるかしら。まあねえ、過去にもいろいろ、木村拓哉の「肌質」に関して書いてきたから、推定4人の読者のみなさんは特にそう思うかもね。でもあたくし、いまの木村拓哉は1周回ってかなり好き。と言うのも、木村拓哉の「“変わらないこと”の期待のされ方」って、ちょっと可哀想なくらいのレベルだから。

 木村拓哉は、40を過ぎても「ヴィンテージ」の域に入ることを未だに許されていない、日本芸能史上、唯一の「大看板アイドル」です。「ヴインテージアイドル」とは「いま現在、数字的にはたいしたことがないけれど、『刻んできた歴史そのものは諸手を挙げて評価せざるを得ない』と万人に認めさせてしまう人」のこと、とあたくしは定義しています。

 実はかの松田聖子でさえ、1994年には「ヴィンテージ」扱いになっているのよ。1989年にシングルチャートの1位が取れなくなって、紅白歌合戦の出場も途切れ、その後はしばらく、売り上げ的には本当に落ち込んだ。嵐のようなバッシングもあった。そんな5年を過ごしたあと、1994年に『輝いた季節へ旅立とう』で紅白に久しぶりに登場するのね。この曲も、実はチャートでベストテン入りしていないの。それでも、12月31日の夜、『ツァラトゥストラかく語りき』の調べとともに天井から降りてきた巨大なミラーボールの中から、天使の羽を背負った聖子が満面の笑みで現れたとき、多くの人がひれ伏したのよ。「すげえオンナだ」と。

 当時の聖子は32歳。その年齢で、聖子は「新曲がベストテンに入らない」ということが「取るに足らない小さなこと」と扱われるアイドルになったわけ。ヴィンテージシーズンの突入ね。その後は、「ザ・芸能界」のトップどころ1?2%の「超上位層」に位置する人々、たとえば石橋貴明や中居正広などが、「共演できることを異常なほどありがたがる」ことで、「聖子ヴィンテージ」の熟成に一役も二役も買っていたわ。

 ひるがえって、木村拓哉はどうなのか。あたくしの知る限り、「あぁ、気ぃ遣われてるわねえ」と思うことはあっても、超上位層のタレントが「木村拓哉との共演をありがたがっている」場面を、見たことがありません。また、前作の主演ドラマ『安堂ロイド』が、その内容よりも視聴率のことばかりが話題(しかもネガティブ寄り)になっていたのも、まだみなさんの記憶に新しいのではないかしら。40代に突入してもなお、ここまで「数字」のことを言われるアイドルなんて、いまだかつて存在していない。木村拓哉は、松田聖子すら経験していない未曾有の状況にいるわけよ。「数字より、ありがたいと感じさせるステージ」への移行を、聖子以上に許されないアイドル、しかも、性別はオトコ。「オバさんになること」の何万倍も「オジさんになること」、つまり「ありがたいと感じさせるオトコ」になることがオトクな、この日本でね。

「アイドルが、アイドルのままで年をとる」という「困難」と、最初にがっぷり四つで組んだのが聖子なら、オトコのアイドルでそれに最初に取り組み、かつ、聖子以上にK点を伸ばし続けているのが木村拓哉という感じね。この「木村拓哉ひとりの肩にかかる、しんどさ」を、ジャニーズ事務所は感じて、何かを学んでいるのかしら。

 SMAPのあとに「国民的」という枕詞がついたオトコの子グループといえば、嵐。でも嵐は、「絶対的エース一枚看板で成り立つグループ」ではなく「メンバー全員の対等な関係性を見せていく」ことで成り立っているグループね。SMAPは、たとえ香取慎吾のファンや中居正広のファンであったとしても、「SMAPの看板は誰?」という質問には「木村拓哉」と答えざるを得ない、明らかなパワーバランスがあった。対して嵐は、「嵐の看板は?」と訊かれたら、どのメンバーのファンであっても、「嵐は、5人で嵐」的な答えがいちばん多くなるじゃないかしら。

 嵐のような構成だと、グループ全体にかかる『圧力』(個々の加齢やグループの人気の衰えといった、すべての芸能人が向き合わなくてはいけないもの)が、誰か1人に集中してしまうことはなくなる。個々の重荷が、多少なりとも軽くなるわけよ。SMAPから嵐への、この「流れの変化」が単に偶然だとしたら、ジャニーズ事務所の無意識の嗅覚にはおそれ入るしかありません。

 今度の『HERO2014』は、まず間違いなく、オンエアの翌日には2001年の『HERO』と視聴率の比較をされていることでしょう。そんなキリキリするようなタスクを、40代になっても負わされている「キムタク」を、今回は、ちょっと本気で応援していたりするのです。今度はどこまで肌をピンピンにして出てくるのかしら……。「応援してるなんて言ったそばからこのオカマは」って? いいえ、これがあたくしの応援の仕方なのよ!

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