女性週刊誌が売れない。ワイドショーのメインのネタは、もはや芸能スキャンダルではない……。そんな風潮になって何年経つでしょう。
原因はいろいろあるでしょうが、あたくしが見る限り、大きなものは2つ。「広い世代の一般人に憧れられるような芸能人が少なくなった」ことと、「一般人の生活もめまぐるしくなり、『芸能人の生活より、自分の生活のほうが面白い』と感じるフツーの人が激増した」ことじゃないかと思うの。「フツーの人」と「芸能界の人」の間に流れる川の広さ・深さが、年々小さくなっていることを感じるわ。
AKB48の結成にあたっては「クラスで10番目くらいに可愛い女の子を集めた」とか「いや、3~4番目だ」とか、諸説はあるみたいだけど、決して「全国のコンテストで1番」という子を集めたわけではないことだけははっきりしている。松田聖子や中森明菜はそんな触れ込みで芸能界に入ってきたわけではないのよね。
コンビニの雑誌売り場の女性誌のコーナーに、「海外セレブ」に特化した雑誌が何冊も置かれるようになって、もう10年くらいになると思うのだけれど、それは仕方のないことだと思うわ。あっちのショービズ、「どこからどう見ても一般人には見えない」を超えて「いや、むしろ一般人に見えてしまうのは屈辱」という気合十分のセレブ(あたくしはこの言葉を、ちょっと小馬鹿にするために使っていますが)ばっかりなんだもの。「日常着」という概念がそもそも存在すらしていないレディ・ガガを筆頭に、いいキャラたちの魔窟ね。
そんなアメリカのショービズ界で、ここ7~8年「女王」としての地位を譲っていないのは、ビヨンセだと思う。「世界でいちばん売れたガールズグループ」と認定されたデスティニーズ・チャイルドの“センター”からソロになってからも、『Crazy in Love』とか『Deja Vu』、『Single Ladies』など、数々のヒット曲を持つビヨンセですが、「パワフル&セクシー」を強力に打ち出しながらも、そこはかとなくマヌケ感が漂うPVは、いつも物議の的です。『Deja Vu』のPVは、「どう見てもこの振付は、アホの坂田師匠リスペクトだろう」と日本でも一部で熱い支持を集めました(3分28秒ごろから)。改めて見直してみたら、「坂田師匠ムーブ」だけでなく、全編おいしい振付満載でしたが。
ビヨンセは「圧倒的な存在界をベースに、絶妙なマヌケさをスパイスに」という、「女王」の資質を備えた素晴らしい歌姫ね。「異常なほどのハイセンスを追求しているのに、なぜか日本の過去のショービズをなぞってしまう(これに関しては回を改めて)。しかも歌がド下手」なマドンナとか、「圧倒的な歌唱力だけでは飽き足らず、ダルッダルのお腹をへそ出しに状態にして、ファンデーションで腹筋描いちゃう」マライア・キャリーとか、そういった系譜に見事に乗っているわ。
あと、日本人にとって、海外のセレブがどうしても「ちょいマヌケ」に見えてしまうのは、自分で洋服のブランドを持って、安い値段で売ったりしているからじゃないかと。ご多分に漏れずビヨンセも自分の母親がデザイナーをやっている「デレオン」とかいうブランド持ってるけど、そういうの、日本では30年前に聖子(フローレス・セイコ)や山田邦子(クニちゃんショップ)がやってしまったことだからねえ。「手垢つきすぎて、もとの色がわかんない」くらいの分野であるわけよ。クニちゃんショップの系列に、ビヨンセの洋服。やだ素敵。アメリカ人には、そういうのを「ダサい」と判定する感覚がないわけね。それって決して悪いことじゃないと思うのよ。
「マヌケさも含んでいるから、女王」というテーゼがきちんと機能するのって、幸せよ。だって、「一般人がセレブの“マヌケさ”まで許容してくれる限り、彼女たち(彼ら)は、絶対に小さくまとまることがない」から。
というわけでビヨンセ周りで起こった「事件」は、世界中を騒がせることになりました。妹のソランジュが、ダンナのジェイ・Zをエレベーターの中で殴る蹴るの大サービス。エレベーター防犯カメラ映像が、当たり前のように流出してしまうのも含めて、アメリカっておおらかな国なのね。
で、普段から「ガールパワー」を前面に押し出しているビヨンセ一家が、こうした「リアルライフ」でも「ガールパワー」のままに行動していることに、ワクワクするあたくし。紹介している動画では映っていないけれど、エレベーターを出て、パパラッチたちが待ち受ける場所に出たあとで、ビヨンセとソランジュったら、自分たちだけでリムジンに乗り込むや、ジェイ・Zを乗せずに走り去ってるからね(solange jay-z で検索をかければ、けっこう動画が出てくると思うわ)。もうね、終わりまで完璧。所在なさげに自分を乗せれくれる車を探すジェイ・Zの背中が素晴らしい味わいだったわ!
賭けてもいいけど、これでビヨンセたちの人気が落ちることはないでしょう。むしろエレベーターの中でしおらしいオンナだったりしたら、ビヨンセ人気を支えるオンナたちにおおいに幻滅されていたと思うわ。
「マヌケさのスパイス」が、「ガールパワーという、本来の持ち味」を殺さないどころか、生かしてる。それが、あちらの「セレブ」の条件ね。
あ、そうそう、あたくしの知り合いは長いこと「ビヨンセ」を「ビ・ヨンセ」という韓流スターだと思っていたそうで、初めてビヨンセをテレビで見たとき、自分の勘違いを修正するどころか「韓国系とアフリカ系のハーフなんだ」と納得したそう。それを聞いたあたくしが、「ああ、この人には敵わないわ」と痛感したのは言うまでもありません……。