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「地元意識」

茶屋ひろし2011.01.13

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あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。
父親からの年賀状に、「『自分探し』は、つくられた言葉だったそうです」と書いて ありました。皮肉? と首を傾げました。
私は自分を探したことはありませんが、父からは、そういうことをしているように見 えるのでしょうか。早く定職に就いて結婚して安心させて欲しい、というメッセージがいろんな形になってやって来ます。毎日働いているけど・・、と思います。
そのあとにドカドカと子どもたちの写真がついた年賀状が続きます。その親をやっている、かつての同級生たちの笑顔を見ながら、この人たちがあなたの子どもだったら良かったのにね・・、と父を思いました。
父の期待に、残念でした、と申し上げるべきか、「何を言うてるんや君ぃ、人生は思い通りにならないことの連続なんや。思い通りにならないから、人生!」と、去年私に向かって、酔って高らかに言い放った言葉をそのままお返しするべきかどうか、新年早々迷うところです(って皮肉・・、親子か!)。
以前は反応に困った、可愛い子どもたちの写真付き年賀状は、幸せのおすそ分けをいただいているような気持ちで受け取れるようになりました。笑顔になれる場所はそれぞれで、それらがゆるやかにリンクしていればいい、とも思います。
そんなことを思うようになったのは、年越しを下北沢で過ごしたせいでした(色っぽい話ではありません)。今年も二丁目で年を越そうかな、と、去年あたりから、二丁目はもういいや、と遊びに来なくなったゲイの友達を誘ってみたら、逆に、下北沢の行きつけの飲み屋に誘ってくれました。
行ってみると、そこはゲイバーではなくて、40代の夫婦が経営する小料理屋でした。
「オカマが増殖しました」と紹介されました。友達はすっかり「オカマ」として知られているようです。出会う人たちは、主に30代から40代の独身の男女です。ゲイじゃない人たちの間で飲むのはひさしぶりで、店のテレビで紅白を見ながら、最後に出てきたドリカムの吉田美和さんを、嫌い、となじる友達に、「同族嫌悪?」と可笑しくなりました。
「ドリカム現象」という言葉が昔流行りました。男二人に女一人で、みんな友達という関係です。いや、あれは友達以上、恋人未満(古い・・)で、男の子の間で守られている女の子のイメージもあったような気がします。
今、まさに、あなたがそんな女の子だよ、と小料理屋のカウンターで、常連客と楽しげに話している彼を横目に思いました。二丁目で飲んでいると、生々しい恋愛性欲の話を避けて通れない(通れますが)けれど、この町では(ゲイには)それがないので気楽に飲めるのかしら、と想像しながら、なんにせよ、その人が居心地のよい場所に身を置くことはいいことだわ、とまとめて、新年を迎えました。
そのあと行く先々で、彼の知り合いと出会って合流して行き、二年前にも、その友達が連れって行ってくれた店に辿り着いて、なんだかすべてが、つながりました。
初めてその店に入ったとき、私が話し始めてすぐに、私が「オカマ」だと他の客にバレて、「バレたけど、大丈夫?」と友達に聞いたのでした。ゲイだということを店の人に言ってなかった友達は、私にアウティングされて、「大丈夫」とうなずきました。
あれから二年のあいだに、彼は行きつけのお店を増やして行って、「オカマです」と私みたいなことを言うようになって、居場所をつくって、楽しんで・・、大したもんだわ、と変な感心をしてしまいました。
前に、別のゲイの友達に、「茶屋君は、二丁目が地元だもんね!」と言われて、なぜか、それは困る、と思ったことを思い出します。けれど、二丁目の外に「地元」があるゲイの人から見ると、私が「二丁目の住人」に見えるのも仕方のないことかもしれません。
先日二丁目で知り合った、ウリ専で働いている22歳の男の子と話していて、「お正月は実家に帰るの?」と聞いたら、「実家はありません」と返ってきました。「またどうして」と尋ねると、父親は小さいときからいなくて、母親は三年前に家出してしまって、そのあと兄弟たちも家を出て働き出して、みんな各地で生きているから、今は実家がないそうです。
「もう大人だし、自分のことは自分でやっていくしかないから」と笑います。
「そっかー、じゃあ、自分がゲイだと気づいて二丁目に働きに来たの?」と聞くと、
「いや、あんまりゲイだとか思っていなくて・・。オレ、どっちでもいけるな、って感じです。それを変だと言う人もいるけど、そういう人には近づかなければいいし」
そんな彼にとって、二丁目は居心地がいい場所かしら、と思いました。いま二丁目で働いているのは、居心地のよさよりも、とりあえず生活していくためかもしれません。けれど、仕事を含めての生活なので、できるだけ居心地のいい場所であればいいな、と思います。でもその居心地のよさは自分で働きかけてつくるものかしら・・と下北沢の友人を思い出して、けれど思い通りにならないことも人生なのよね、と父親
の台詞もよみがえります。
これまで「自分」を探したことはありませんが、すでにいる場所で、そこにいる人たちとの「反応」で、立ち現れるものが「自分」なのかな、とは思います。私に欠けているのは、それをそこに落ち着かせる、という意識かもしれません。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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