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No Women No Music 第4夜 あぁ、冬美ちゃん 〈後編〉

ほんま えつ2014.05.06

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1月27日渋谷公会堂。坂本冬美コンサートツアーの初日。2009年発表の「また君に恋してる」が大ヒットの渦中、テレビで見た彼女のリサイタルにあまりにもうっとりしてしまった私は、冬美ちゃんの歌を生で聴きたいとずっと思っていた。その念願は今回叶ったわけなのだが・・・・。


オープニングは「夜桜お七」。正直、えっ、もうこれ歌っちゃうの、である。その後、冬美ちゃんはマイクで自分の原点は猪俣公章先生の男歌であると語り、男歌演歌3連発。あ~、私はやっぱり男歌が好きではない、と痛感。当たり前か、〈俺〉が主体の封建的男世界の歌だもの。確かに坂本冬美の男歌の歌いっぷりは、あの美しい容姿にシンプルな織の男前な着物の出で立ちで、うねるような節回しも力強くお見事。歌のうまさ、これぞ演歌、といった見せ所が大いに発揮されるのだけれど歌詞がねぇ・・・。

昨年、坂本冬美が男歌演歌の原点に帰るという触れ込みで発売された新曲「男の火祭り」をこの日、私は初めて聞き、マジに椅子から半分ずり落ちた。あっぱれ、あっぱれ、という観客の煽りとともにくりだされる歌詞の触りはこうだ。〈日本の男は身を粉にして働いて 山に海に生きてきた 女は嫁いで男によりそって留守を守ってくらしてきた・・・〉。こんな日本の伝統をつないでいき感謝しようよ、それがあっぱれって。もうズドンとバズーカ砲で撃たれた気分。こんな歌で盛り上がっている会場に大きなダメージを負い、演歌の保守本道を超えての今御時世の国策か、と深読みモードに入った私の思いなど関係なくステージは進む。

そしておそらくこの日のハイライトであろう歌謡浪曲「岸壁の母」である。弟子入りした二葉百合子さんから正式にこの歌を受け継ぐことを認められたという坂本冬美。お披露目である。ステージではスクリーンに、昭和20年代当時の舞鶴港、シベリアから引き揚げてくる復員兵たちの姿が映し出される。それを待つ家族の姿。再会し抱き合い涙する姿。そしてこの「岸壁の母」のモデルになった端野いせさんが写される。私は恥ずかしながらこの時まで、この「岸壁の母」に謡われる内容を知らなかった。思えば子供のころ、二葉百合子さんの歌う「岸壁の母」がなぜか怖かった。戦地から帰って来ないひとり息子を迎えに、何十年も舞鶴の岸壁に通い、待ち続ける、その母の姿。なぜ怖かったのか・・・。これを機に端野いせ著「岸壁の母」を図書館の閉架書庫から借り読んでみた。端野いせさんは明治32年生まれ。結婚後夫は酒浸りとなり、酔っては端野さんを殴る様が読むだにつらくなるほど綴られている。絵に描いたようなDV。結婚5年後そんな生活のなかで息子新二を産んだ。夫は息子には優しき父。息子新二さんが3歳の年、夫は病死。以降母一人で育て上げた矢先、新二さんは19歳で出征した。この息子が帰らねば、自殺も辞さぬというという母いせの深い愛情、なぜわが息子は帰らぬのかというあまりにも重い母の無念さ、二葉百合子さんの歌う「岸壁の母」にはこのいせさんが憑依しているような怖さがあった。

だが残念ながら坂本冬美の「岸壁の母」にその情念を垣間見ることができない。一語一語が丁寧に思いを託したものであることは伝わるけれど。きれいに謡いあげられた坂本冬美の「岸壁の母」、そのステージに施された演出は当時への郷愁を醸し出す美談として、美化される昭和、強固に美化される家族の絆として、皮膚感覚がぞわっとするような居心地の悪いカタルシスに包まれていた。流行歌は保守化する世の大衆操作に利用される。明治時代は演説歌の略として政治を風刺するプロテストソングであった演歌は昭和になりレコード会社の設立とともに大衆音楽と変遷した。

そんな居たたまれぬオーラにどんよりといているうち、アンコールでは再び「男の火祭り」。この歌のキャッチコピーは〈日本の男を奮い立たせる応援歌〉である。私の隣席の見知らぬ男(見た目40代後半くらい)は、ドスの効いたオトコ声で冬美ちゃ~ん、冬美ちゃ~んの大連呼、大いに奮い立っていた。ああ、坂本冬美はこれから保守本道ともいえる演歌路線に突き進むのか。行かないで冬美ちゃん!

※現在は端野いせさんの息子新二さんは養子であった。そして2000年生存が確認された。シベリア抑留の後満州に移され中国共産党・八路軍に従軍。その後は上海でレントゲン技師として働いていたと報道されている。


坂本冬美「男の火祭り」二葉百合子「岸壁の母」

坂本冬美「岸壁の母」

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ほんま えつ

ほんま えつ(ほんま・えつ)

音楽、映画、本をこよなく愛して生きる趣味人女。
小学5年生のとき同級生の友達宅で聴かせてもらった「クィーン」に感動。
以後、洋楽を貪り始める。初めて買ったLPレコードは「アバ」のベスト盤。
いまではこれぞと思った音楽はジャンルを超えてなんでもござれの雑食派。
本連載、約10年ぶりのカムバックです。

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