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同い年の女友達が、ある日電話で、「子どもを産みたいな、と思ってさ」と言いました。付き合っている男性はいません。相手はどうするの? と聞くと、「そういう相手が見つかる可能性はこの先ないんじゃないかな、と思うの。ない可能性をアテにするより、産んで育てるということを形にしていく方が早いかと思って、最初からシングルマザーで行くと決めた方がいいかな、と」 精子はどうするの? と聞くと、「精子提供者を探して人工受精・・かな。まあ、ドラマに影響受けすぎているところもあるけど」と笑いました。ドラマとは、「エルワード(Lの世界)」のことです。そして、「どこまでも一人で決めて実行できないかなー」とため息をつきました。

彼女はヘテロセクシュアルですが、ここ数年間、あるセクシュアルマイノリティーのサークルに参加しています。会社勤めでは味わえない開放感があるそうです。アメリカのTVドラマ「エルワード」にもハマり、ついにBOXを買い始めました。

自分の見ているTVシリーズを友人が買い始めるとラッキーです。順次借り始めました。彼女はこのドラマに「憧れ」と「共感」と「開放感」を持っているようです。「エルワード」以前の「SEX AND THE CITY」にはあまり興味を示していませんでした(と、なぜか比べてしまう)。そのころ彼女が好きだったジャンルは「ホラー」でした。

というわけで、先日シーズン5を見終えました。シリーズはシーズン6まであり、アメリカでは放映が終了しているようです。5 まで来ると、ドラマとしていよいよ佳境に入ってきたということでしょうか。けれど私にとっては、その密度の濃さに毎シーズン佳境を感じています。密度の濃さは、主軸となる5人のレズビアンの関係性にあります。仲良しグループです。その中でカップルは一組だけで、一度別れましたが、シーズン5 で戻りました。あとは基本的にそれぞれの人物が、グループの外で出会う人と、恋に落ちたり破れたりを繰り返していきます。グループの外からやってきてその中の誰かと付き合って別れた人たちは、もうドラマに登場しません。最初は、私たちのグループへようこそ、と受け入れられて仲間になりますが、その誰かとの恋愛関係が終わるとまた外へ出されてしまいます。残るのはいつもの5人です。この5人のつくりだす、仲間意識というものがドラマの密度を濃くしているような気がします。

けれどそのグループの一員のジェニーという人物は、最初からグループに馴染まないキャラクターとして登場しました。もともとはノンケで、グループに出会ってレズビアンになった人です。そのうち自分とそのグループのことを小説にして出版します。それを読んだグループ内の人たちが、「こんなの、全然、違う」と怒り始めて、ジェニーは嫌われ者になっていきます。けれどジェニーはお構いなしに、それを映画化することに成功します。前回のシーズンでは、ジェニーがゴムボートに乗って海へ出ていくという印象的なシーンで終わりました。嫌われ者になって島流しに処された、と驚きました(本当は彼女が自由を求めて旅立つというような意味だったと思われます)。

ジェニー・・ドラマの制作意図にハマっているのか、私はずっとジェニーの存在が気持ち悪くてしかたありませんでした。
グループのもっと外のノンケの世界からやってきて、レズビアンになったものの、グループに馴染めず、さらにグループ内の神経を逆撫でするようなことをしてしまうジェニー。周囲の人たちのことを書いて人間関係を悪化させてしまうという状況も、自分と重ねてしまい身につまされます。
過去のトラウマから、もう何者からも傷つけられたくない、とむしろ怒りに満ちて、自分の世界観を維持します。相手の性別やセクシュアリティーがなんであれ、そこでの共感より、彼女の意志が勝ってしまうような付き合い方をします。ドラマの世界にある常識を揺るがしてしまいます。
そのバランスの悪さが笑いより狂気を生んでいるように見えて気持ち悪いのか、同族嫌悪なのかわかりませんが、どちらにせよジェニーから目が離せません。
シーズン5 で急展開を見せました。周囲からワガママと言われても、私はアーティストだからと開き直り、監督業にいそしんでいましたが、ジェニーのファンだという女子が現れて影武者のような動きを見せ、ついにはジェニーの社会的地位を丸ごと奪い取ってしまう、「ガラスの仮面」(何巻だったか忘れました)現象が起きたのです。北島マヤの場合はその影武者を姫川亜弓が打ちのめしてくれましたが、ジェニーを気持ち悪いと思っていた私は、どこに共感していいものやらわからなくなってしまいました。

けれど、その影武者のおかげで、ジェニーはグループ内から共感を得てしまいます。それはこれまでになかったほどの受容です。ジェニーの映画「レズ・ガールズ」の内容を非難して、ジェニーのふるまいに腹を立てていたグループが、新しい敵を前に、見事な結束をみせて、ジェニーの擁護にまわりました。
そうなると見ている私も勝手なもので、なんだかほっとしました。ジェニーが気持ち悪くなくなってしまったのです。
私が共感をよせていたのは、このグループの法則だったのでしょうか。それともジェニーだったのでしょうか。
グループの5人は、かつては互いに恋人同士だった過去を持っていて、そのあと仲間としての信頼を深めてきたという設定です。これは二丁目で出会うゲイの人たちと重なるところがあります。

一度付き合って別れた人と、その後も友人として関係を続けるという経験がない私にはまだ馴染めせんが、二丁目でそういう場面をたくさん見るうちに、これは従来の「家族」ではない「家族」のようなものなのかしら、と思うようになってきました。
このBOXを貸してくれた前述の友達からは、「茶屋君には二丁目が居心地良すぎるんじゃない? そろそろ出た方がよくない?」と言われます。そういえば、プロフィールに書いた「二丁目で働いていて覚える違和感」もあまり覚えなくなっているような気がします。そう言われると、まだ二丁目の中で「気持ち悪いジェニー」でいたいという気にもなって、どっちやねん、と思います。というより、私も精子提供者を求める友達に劣らず相当ハマっているようです。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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