またあの二股地獄がやってきた。Tと私の世界はTの先輩、Oの出現で滅亡してしまった。Kの時に味わったあの苦しみの記憶が私のカラダを震わせる。しかも今度は結婚を前提とした付き合いだというのだ。
『どうすればいいのか私!・・・』
こんな状況になっても、私は自分への問いに答える言葉を持てないでいた。
T「私は普通の人と付き合って結婚して子供を産んでその人に守られて暮らしたいの。でも私はもうアンティルなしじゃ生きていけないの。こんな心とカラダにした責任をとって!アンティルがオンナだからいけないんだから、それがアンティルの役目なの!!責任なの!!!」
Tから離れることを許さないというTの言葉は、辛くもありうれしくもあった。今思うと、あれは何と言うか、プレイの一つだったのだと思う。あの頃のデート風景や会話を思い出すとちょっと恥ずかしい。
週に1回の密会。デートは決まってOが残業の夜だった。Tが好きだった高級レストランで食事をして夜景の綺麗な倉庫街に車を止める。時間は夜22時。Oから電話がかかってくる0時の時間までのささやかな逢瀬。車の中では濃厚なブラックミュージック。甘いバラードが車内に充満する頃、私達は車の中でセックスをする。♪I MISS YOU・・・・
T「どうしてアンティルはオトコに生まれてこなかったの」
セックスをしながらTは涙を浮かべて同じ言葉を吐く。音楽とTの言葉とセックスが悲劇の舞台に2人をのせる。12時まであと1時間。残された時間を惜しむようにいつまでも抱き合い夜景に包まれる二人・・・・・これがアンティルとTのデート~倉庫街編だ。
そしてもう一つのパターンがカラオケボックス編だ。
レストランでの食事の後、私達はTの家のそばのカラオケボックスに行く。歌い始めて1時間、もうすぐ帰らなければならないという時間になうと、Tは決まってその頃流行していたユーミンの曲を入れる。
♪どうして どうして 僕たちは出会ってしまったのだろう~壊れるほど抱きしめた~♪
涙ながらに力強く歌うTに私は、アンサーソングを入れる。
♪I LOVE YOU 今だけは優しいうた 聞きたくないよ・・・・何もかも許された恋じゃないから 二人はまるで捨て猫みたい・・・・
尾崎豊の「I LOVE YOU」だ。カラオケボックスは私とTが放つ空気に彩られドリンクを運んでくる人もたじろぐ程の威力を放った。そしてカラオケのあと、私達はラブホテルで1時間足らずの時間を過ごす。
もう、高校生の時のようにTが私以外の誰とも付き合わずに、私だけを好きでいることなんてないとわかりながら、それでも私はTのそばにいた。それはTの言葉に縛られていたのではない。私が自分を縛っていたのだ。私は“あたりまえの恋愛”をすることができない。幸せになってはいけない運命なんだ。こんな生き方をしているバツなんだ。そんな諦めが私をTのそばから離れられないようにしていたのだ。
そんな日々を1年ほど過ごしたある日。また事件が起こった。Tの家に電話するとTの母親が電話口で泣き叫んでいる。
Tの母「Tが今!今から救急車に乗るの!!!」
ガチャ。ツゥーツゥーツゥー・・・
電話は切れた。もう一度電話をかけてみる。
プルゥルル プルゥルル・・・・
もう誰も出なかった。私はTの近くの消防署を調べ、Tが運ばれた病院を聞き出し車を飛ばした。
ア「T!!!!」
夢中で車を飛ばし、病院へと向かう。
ア「Tさんの部屋はどこですか?!!!」
悲痛な声が病院に響き渡る。エレベーターが降りてくるのを待てず、階段で5階まで上がる。
ア「あった!T!!!!!」
病室に入るとTの手を握るOと、涙を流すTがいた。