Tを会社から自宅まで送る日々が終った。
T「私に彼氏がいるって噂になっているの!黒いサングラスをした男が毎日、私を迎えに来てるって、同僚の男の人からからかわれてるんだから!!もう絶対に来ないで!!」
自分が男に見られたことに少し喜びながら、透けて見えるTの本心に悲しみを抱く。TがKと別れてから続いていた束の間の平和。ドライブにも行った、映画にも行った、旅行にだって行った。あの日々が終るなんて!私にはTしかいないのに!Tがまた私のもとを去ろうとしているなんて?!!
T IS MY World!!
この日からTとの連絡が途切れた。電話をしても家にいない。1月後のある日、私はたまらずTの会社の前で待つことにした。『Kの時と同じように誰かとつき合っているのかもしれない』『Tを失うなんてどうしよう!』心が折れる寸前まで私は追い詰められていた。
ビジネス街にあるその街は夕方ともなると人の流れが道を埋め尽くす。私はサングラス越しの黒い世界で必死にTを探す。あの人でもない。あっ!あのTだ!いや違う・・・。『あっ!Tだ!!』15分後、とうとうTを見つけた。
Tを見つけ走り出す私。
「T!」
私の声を聞いて振り返ったのはTだけではなかった。
「誰?この人」「えっ!なんでもないの。アンティルさん久しぶり!元気?!!」
「えっ!なにをいっ・」「私の会社ここなんだ!」「この人、例のサングラスの人なんじゃないのか?」「違うよ。(笑)そんな人いないって!じゃあねアンティルさん!また電話するね!!」「ティ・・」
Tは少し年上の男と共に地下鉄の駅に消えていった。背広がカラダの一部になっているような男の姿が目から離れない。私の制服にはなることはないであろう背広。その背広が似合う男。絶望的な気持ちになり私はただただ部屋で小さくなり続ける。その絶望を和らげるものなどT以外、存在しない。
酒も睡眠も友人との電話も私にはなんの足しにもならない。トゥルルル
夜12時、電話の音が暗い部屋の中で鳴り響いた。
ア「もしもし!」
Tだ。
T「私だけど、なんで来たの?!!」
ア「だって連絡もくれないし、会いたくて・・・」
T「私がレズだって思われたらどうするのよ!」
ア「どういうこと?私とずっと一緒にいたいってT、言ってたじゃないか」
T「私は結婚して子供もほしいの!普通の生活がしたいの!アンティルじゃ私の望みを叶えられないでしょう!!私今好きな人がいるの。うちの近くに住んでいて。高い車も持っていて。すごく大人なの。」
ア「・・・・・・・・」
受話器を持ちながら、声を上げて私は泣き続けた。なんで、なんでと繰り返し言いながら、受話器を切ることも出来ず涙だけを落としていた。
T「あなたが悪いのよ。」
ア「・・・・じゃあもう私と二度と会えなくなってもいいってことなんだね。ヒックヒク・・・」
私の鳴き声がしゃっくりのように繰り返し同じ音をたてる。
T「それは許さない。あなたには責任があるの。私にはアンティルも必要なの。」
ア「!!!???????」
頭が逆回転し、血が勢いよく流れていくのが自分でもわかる。体中でTの言葉の意味を考えようとしているみたいだ。“好きな人がいる”という言葉に絶望し、“アンティルも必要なの”という言葉に喜ぶ心は完全にパニック状態だ。
T「私はもうアンティルがなくては生きていけない。頼りにしてるの。心もカラダも。」
ア「?????!!!!!!!」
40分後、私はTとラブホテルのベットの中にいた。
T「今日私その人とセックスしたの。」
そう言って私に抱きつくTを拒否することもなく、縋るように抱きつくことしか出来ない私はもう完全に正気を失っている。キスをし、胸を舐める。Tも私もいつもよりきつく抱きしめ合う。そして足もとに顔をうずめた時、私はTのカラダの異変に気がついた。
『これTの身体じゃない・・・・』
目隠しされて足元に顔をうずめ、舌先だけでTを探さなければならないことがあっても必ず当てることができる私が間違えるはずがない。これはTじゃない!
Tとの終焉まであと11ヶ月。