TがKと別れた。
1年ぶりにTと再び付き合い始めたその頃の自分の写真を見ると私は実に男らしい顔つきをしている。目力がすごいのだ。
以前のように街の中で「あの人オンナ?」「気持ち悪い~」なんて言われたら、またTが私のところから去ってしまうと恐れていた私は、ヒソヒソ話しをしそうな人達に先制攻撃で睨みをきかせ、噂話しをさせないという攻撃方法を身につけた。そんなことをしょっちゅうやっていた私は鷹のような目になっていった。そんなことをしているうちに私の口元にはうっすらと髭がはえてきた。自分の意志がカラダを変えるということを実感した経験だった。
Tとのデートはもっぱら車。Tが好きな“大人の男”に近づくために私は話題のレストランをリサーチしKとならけっして来なかったような高級レストランでデートした。デートの後は夜景ドライブだ。夜景ドライブの黄金時代、80年代後半。デート雑誌にまだ載っていないとっておきの場所を自ら探してはTにクールに披露した。
車はスッーと海辺に止まる。向こう側には高層ビル。そこは誰もいない倉庫街。
T「すごい綺麗~」
ア「そうだな。」
T「よく来るの」
ア「まぁね」
この頃の私はTの気を引くために他の人ともデートをしているフリをしていた。
無論、そんな事実はない。
T「昨日の昼電話したんだけど、いなかったでしょ。どこ行ってたの?」
ア「ちょっとね」
そう言いながら、私はTが喜ぶ夜景スポットを捜していた。そんな方法でしかTの心を留めておけないと思っていたのだ。Tはそんな嫉妬プレイを楽しんでいたようだった。
T「他の人とドライブに行かないで!いやだ!!」
そしてグッと抱き合う二人。そんな会話もセックスの一部だ。しかし私の仮面がポロッと取れてしまうこともよくあった。それはTの車にKがいた形跡があった日。
そんな日は大抵同じような口論になった。
T「本当の大人の男だったらどんなに私が他の人といても嫉妬しないよ!」
そして私は車から降ろされる。私はKの所に行かないで! と、車を走って追いかけた。
転んでも転んでも私はTの車を追いかけた。前と違って10回に1回は戻ってきたが大抵は戻ってこない。そんな時はTの車を駐車場で待つ。1度だけ駐車場にKを乗せて戻ってきたことがあった。真夜中の1時。5時間以上待っていた私はのカラダはまだ寒い春の風にうたれて震えていた。通り過ぎた車の中には2人の笑顔がある。
エンジンを止めた車から流れるブラックミュージック。私は勇気をふるってTの車に近づいた。曇ったガラスの向こうで2人はカーセックスをしていた。
それでも私はTを嫌いになることができなかった。もはやTなしでは生きていけないとまで思い込んでいたのだ。セックスと嫉妬にまみれた日々。1年後私たちは社会人になった。