私の作戦は成功した。TもKの“嘘”に気がついたのだ。5人兄弟だったことは間違いなかった。しかし、Kの家は貧乏ではなかった。
“頼りにならない父親の代わりに家族をまとめる長男”
“学費をアルバイトで稼ぐ親思いの男”
KがTについていた嘘。
時代は80年代。お金を湯水のように使うことで沸く空気の中、お金に苦労する家族思いの男にはある種のロマンさえ漂っていた。時代が過去に忘れた貧しさと苦労の物語は明治生まれの苦労人の父親(!!!) を持つTにはたまらない魅力だったのだろう。
しかし、Tの心を捉えた幻は崩壊した。Kはしぶしぶ嘘を認めたのだ。Tの心は変わっていった。TのKへの恋心が冷めていく。そのことを私は喜んだ。
『とうとうTが帰ってきた!!』
Tといる時間が長くなっていった。
私に再び春がやってきた。私は二度とあの春のような思いをしないように、男に磨きをかけた。私がもっと男としてそしてこの頃から私は本格的に筋トレを始め、肩パットに頼ってきた“なで肩”からさよならする決意をする。Tと会っていないときはひたすら筋トレ。目指すはトム・クルーズ。なで肩だって筋肉がつけば逞しくなれる。頭の中にトップガンのテーマを流し、トレーニングルームに通った。
胸をつぶすサラシを巻いてのトレーニングは苦しかった。少しでも膨らみがでないようにきつくしばったカラダは立っているだけでもその部分がドクドクと音を立てている。バーベルは常に男性の平均負荷。動くたびに胸が不自然な形になる私に回りはヒソヒソ声を上げる。それでも私はお構いなしだ。バーベルをひたすら持ち上げ、ひっぱり、カラダ改造を目指していた。夜はボイストレーニングだ。高校時代からやっていたボイストレーニングは自己流の枕式だ。枕に口をつけて布団をかぶり、オーオーと声を上げる。空気が薄い状態で低い声を出す訓練は1時間以上は続けなければならない。Tを再び失いたくないという気持ちは私をトレーニングへと向かわせた。トレーニングとTとのデートの毎日。
そしてこの頃から見た目にも以前のようにオンナだと指摘されることがなくなった。
Wから毎日届く電話。私の足はどんどんWから遠のいていった。
W(留守電)「電話して。」
W(留守電)「今日家で待ってるから」
W(留守電)「そっちに行っていい?」
ある日、Tとのデートが終わった頃、Wが家の前で待っていた。
W「なんで連絡くれないの?!」
Wの顔が鬼のように怒っている。
ア「ごめん・・・・」
W「今日家に泊めて」
私はWを自分の部屋に泊めたことがない。どこかでTとの特別な場所だと思っていたからだろう。
ア「それは無理。」
W「なんで!!」
ア「・・・・・・もう、Wとは付き合えない。・・・・・」
W「だれか好きな人でもできたの!!」
ア「うん。」
W「・・・・・!私、諦めないから!絶対!!」
ドラマの1シーンのような会話にどこか実感がわかない。と、同時に自分が作り出している惨い事実が自分自身と重ならない。
ア「でも、もう無理なんだ。」
Wの涙は私を止めることができない。私は部屋に帰っていった。
再び始まったTとの時間。私はこれまでのTとKの関係の風景が副作用のように私を襲う。幸せと不安、喜びと恐れ。Tとの二人だけの時間は束の間の時間だった。
アンティルが、5月23日フェスティバルでラブピースクラブのブース内で、FTMのセックスライフをサポートするグッズの紹介・説明を行います。
場所:代々木公園:ラブピースクラブのブース内
時間:午後2時30分(5分ほど前に集まっていただき、スタッフにお声をおかけください)
フェスティバルの詳細は!http://www.tokyo-pride.org/festival/