私の“孤独の肖像計画”が成功し、カラオケボックスに合コンらしからぬ空気が流れた深夜0時。ヒロコが宴の終演を告げる。
ヒロコ「そろそろ帰ろうかなぁ・・・・」
まさかヒロコが合コンの終わりを告げるとは! とんだ伏兵だ。疲労が滲み出ていたヒロコの声は男達に不満の声を上げさせない説得力があった。ヒロコが帰らないよう説得するものは誰もいない。シーーン・・・・
隣のボックスから陽気なマドンナの歌が聞こえてくる。
♪ッア ライク ア ヴァージン ゥフッ!!
楽しそうな歌声だ。そんな時だった。高梨のつぶやきが部屋にこだまする。
高梨「ったく 台無しだよ。なんでこいつがここにいるんだよ」
安西「おい よせよ・・・」
高梨「せっかく盛り上がってたのによォ」
どうやら私のことを言っているらしい。ひどく酔った高梨を安西がなだめている。
高梨「どういうつもりだよ。こんな雰囲気にしてよ!!」
安西「やめろよ!」
高梨「おまえが(歌を)すすめなきゃよかったんだよ!!」
安西「俺のせいかよ!!ふざけんなよおまえ!!!」
今にして思えば私の歌は人の心を揺さぶる出来だったと言えよう。合コンで青春を謳歌する、“孤独”とは無縁の男達の心にも私の悲痛の叫びは届いたのだ。
高梨「いつもおまえはそうなんだよ。よけいなことしやがって!」
安西「俺がいつも何するっていうんだよ!!おまえいい加減にしろよ!!そもそもおまえが幹事だろ!!!」
高梨「俺だってな、こんなのが来るって知らなかったんだよ!!!!」
2人の喧嘩が静かなカラオケボックス ROOM NO2に轟く。隣のボックスではマドンナから六本木心中に歌が変わっていた。
♪ だけど こころなんて お天気でかわるのさ 長いまつ毛がヒワイね あなた~
“こんなの”と言われても、私は傷つくよりも先にTの顔色をうかがってしまう。私という生き物への嫌悪をその言葉によって持ったのではないかという疑いからだ。そして私の予想は当たった。Tは高梨や安西と同じように遠い世界から私を見下ろし、強い不快感を顔いっぱいに表している。そのことに私は打ちのめされて泣きたくなる。
高梨「何が“孤独”だよ。“独りぼっちだよ”勝手に一人でいろよ!!」
それまで高梨の言葉に反応する心を持たなかった私の心に怒りという感情の火が灯る。『私が生きていておまえたちに何か迷惑かけたか、おまえたちが大事なこの合コンという遊びは私の“孤独”よりどれほど立派なもんなんだ?』
心のなかで冷たく炎が揺れる。しかし私は“怒り”を相手にぶつけ、自分の感情を消化させる術を知らない。静かに燃え続ける火は消えずに私の心の中で風に揺れていた。
ヒロコ「じゃあ 私、帰るね」
安西「俺も出るよ」
みんなが部屋を出ようと腰を上げる。私も上着を着始めた時、テーブルを挟んだ私の前の席を高梨が蹴り上げた。
高梨「ここにずっといろよ 気持ち悪いんだよ」
遠くで加藤に小さく囁くTの声が私の耳に飛び込んできた。
T「ごめんね、みんな。最悪だよね。」
加藤「Tちゃんが気にすることないよ。」
泣きかけたTの肩に加藤の腕が回る。
『何を謝っているの?! 最悪ってどういう意味?! あなたは私の味方じゃなかったの?!』
♪Cant’ Live Without You Babe Cant’ Live Without You Babe
Don’t Wanna Let You Go
隣の部屋では「六本木心中」が終りかけていた。その部屋にいるであろう者達が声を張り上げて歌っているのが聞こえる。楽しそうに、今のこの時間を喜ぶように。カラオケ ROOM NO2に私は一人になった。