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「弱さと鈍さと狡さ」

茶屋ひろし2009.03.05

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以前、文芸誌のインタビューを読んでいて、作家の桐野夏生さんの答えに感動したことがあります。以下、少し抜粋します。

Q5 老若問わず、惹かれる男性の共通項はなんでしょう?
A  弱さ。
Q6 若い男に耐えられないと思ったこと、また、年老いて行く男に耐えられないと思った経験はおありですか? 差し障りのない程度にお聞かせ願います。
A  若い男の鈍さに耐えられません。
   年老いていく男の狡さに耐えられません。
(「室井滋からの質問」文藝 2008 春号)

弱さと鈍さと狡さとは、なんて的確なのでしょう。そうそう、そういうことなのよ、と強く共感してしまいました。それは、言葉にしてもらえたという感謝の気持ちと同時でした。
(ちなみに次の質問は、「好きな女性のタイプを教えてください。できるだけ詳しく知りたいです。」というもので、回答は「強い女。気が強くて、酒が強くて、セックスが強くて、運が強い女。」でした)

どうでもいい話ですが、私は「だめんず」です。駄目な男を好きになるという自覚はありましたが、それはどういうことなのか、この回答を読むまでよくわかっていませんでした。これまでの好きな男との数々の失敗はすべて、弱さに惚れて、鈍さに苛立ち、狡さを嫌悪する(離れる)、という行程ではなかったか、と一気に整理がついたような気がしたのです。もちろん私も男で若くなくなって行っているので、弱くて鈍くて狡いところもふんだんにあるだろうと思われますが、いつものように自分のことは棚上げです(ズルさ)。

そんな文芸誌の話を思い出したのは、先週、昔好きだった男から五年ぶりに携帯電話にメールが来たからでした。以前、このコラムでも少し触れたことがあります。京都の木屋町でカフェバーに勤めていた頃に一緒に働いていた料理人でした。同い年のノンケ男で、名前はゴローにしておきます。店長がゴローを雇うと決めた時、まだ面識がなかった私は、その履歴書の写真を十秒は見つめてしまいました。顔がタイプでした。初回から横柄な態度が鼻につきましたが、しばらく顔を眺めていたら許せました。ゴローは仕事に慣れてくると、仕事中にオカマキャラの私を触ってはその反応を楽しんだりしていました。私もまんざらではありませんでした。しばらくしてゴローの家に遊びに行って一回泊まった私はそれだけで調子に乗って、ある日、好きだと告げました。気持ちは嬉しいけれど無理だ、友達でいたい、と丁寧に断ってくれたゴローを諦め切れなくて、そのあと明け方の河原町を自転車で家に帰ろうとするゴローを、私も自転車で追いかけました。ゴローは本気で逃げて姿を消しました。翌日、「マジで怖かった」と私の携帯にメールが入り、恋が散りました。

あれから五年経ちました。上京してからは一切連絡を取っていませんでした。その事件はネタとして今でも時々使いますが、それ以外にゴローを思い出すことはありません。
「おひさ 元気か  ゴロー」
と短いメールが来ました。「おひさ」です。この時点でもう私はイラっとしていました。
ゴローとのやりとりで苛立っていた日々がよみがえります。でも顔を思い出したら、好きだった気持ちも思い出しました。成長のない私です。
「元気よ、ゴローはどうしてるん?」
語尾に甘えの感じられる返信をしてしまいます。
「なんとか生きてるわ。俺、今の仕事辞めて東京で働こうと思ってるんやけど、ええ仕事とええ不動産屋知りません?」
そうでした、こういう言い方をする人でした。関西弁だからではなく、文体が気に入りません。すると職場のオーラちゃんが、「うわ、ぼく、こういう人苦手」と横から感想を述べました。

「ひさしぶりに茶屋ちゃんのことが気になってメールをしてみたわけではなくて、茶屋ちゃんを利用しようとしているだけでしょう?」と辛らつです。そうか、と私はやっと気がつきました。すでにゴローに利用されかかっている私です。
仕事も不動産屋も紹介できるようなところは知らないので、私に利用価値はありませんが、これもネタになるかもしれない、とメールを続けることにしました。
結婚しようと思っていた女に新しい男ができて逃げられた、今の仕事は給料がいいから我慢して働いているけど展望はない、前から東京に行ってみたいと思っていた、環境を変えたい。

私にメールをしてきた流れはそんな感じでした。なんやそれ、と思いながら、私は「したいこともないのに、ただ東京に来てもその環境は変わらないと思う」と答えました。
すると件名に「理解は求めてないから」というメールが返ってきて、私はやっと腹を立てました。オーラちゃんの言ったとおりです。仕事も不動産屋も紹介出来ない私には用はないようです(本当にアテもありませんが)。
「失礼な、じゃあもうメールしてくるな」と返すと、「俺が悪かった。ただ、なにも考えていないわけではない、ということを伝えたかっただけだ」と謝ってきました。
私はまた、上から目線でモノを言っていて、ゴローは馬鹿にされたと思ったのでしょうか。けれど、そういうことでもべつにかまわないと思いました。自信のないゴロー、苛立っている私に気付かないゴロー、けっきょく自分の未来を人任せにしようとするゴロー、弱さ鈍さ狡さです。以前と比べると謝罪の仕方も巧くなっています。
すでに二件ほど誰かに仕事を紹介してもらっていると、最後に言ってきました。けれど、それらはあまりいい条件ではないのだ、と漏らしました。
知るか、と思いました。「とにかくよく考えて、半年はメールしてくるな」と返しました。
普段にメールをやりとりする仲になってしまうと、まだズルっとひきこまれてしまう怖さもありました。もういいかげん同じ行程は繰り返したくないものです。それに半年たったら忘れているかもしれません(紹介できるアテもないし)。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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