私の顔を見たTの動きが止まった。
それはエサ場に向かった猫が、エサまで1メートルの所で知らない猫を発見して動けなくなっている時の様子に似ている。油断と驚きの中で防衛本能が作動した入り交じった顔をしていた。正直に反応すれば私との過去関係を認めることになる。Tは不自然にならないよう、久しぶりにあった親友とあった自分を演出していた。
T「久しぶりアンティル!何度か電話したのよ。何してたのよ。彼氏でもできたの?!ハハハハ・・・」
ァ「久しぶり・・・・」(目を合わせずに)
友「何あんた達、最近会ってなかったの?!!あんな毎日一緒にいたのに。あっ、そうそうこの人、サークルの友達で・・・・」
Tがつくる「作り笑い」を私はつるくことが出来ない。恐れるものは何もない。カミングアウトだっていつでもしてやる!という心境だった。
友「席順どうする?向かい合わせにする?それとも交互にする?」
友人の提案に、それまで暗い顔をしてうつむいていた私が即座に答える。
ア「向かい合わせ!」
私はTと隣り合わせになることを期待していた。
友「まぁ、そうだね。盛り上がったら交互にしようか?じゃあ、男子が壁側ね。」
Tは友人の腕を掴んで、警戒心を募らせる。私と隣り合わせにならないよう、右角を狙い、隣りに友人を座らせる気だ。
ア「あっ、○○(友人)なんか男子来たみたいだよ。入り口で○○のこと探している感じの集団がいたよ。見てくれば!」
友「えっ!そう!じゃあ見てくるね。」
その隙に私はTの横にくっついた。右角からT、アンティル、友人、その友人。闘いの準備は整った。
T「どういうつもり?!」
友人が話し込んでいる隙にTが私を睨む。
ア「別に。こんな所に来てKは怒らないの?!」
Kという言葉を口に出すだけで、胸に激痛が走る。
T「今日はバイトだから。・・・」
その言葉を聞いた私の心に、深く長い傷口か大きな口を開ける。Tはとうとう認めたのだ!Kと付き合っていたことを!!しかし私は傷口をいたわることよりも、真相を追求することを選ばずにはいられない。
ア「やっぱりつきあってたんだ。いつから?」
一文字を発するごとに猛烈な痛みが心を突き刺す。
T「みんなが見てるでしょう。」
ア「見られたって構わないよ。いつからつきあってたの?!」
男1「よっー! ゆうこ(友人の名)!!」
入り口で男達を待っていた友人に男①が声をかけた。その声に私とTの会話が止まる。オトコ側の幹事は友人と同じサークルに入っている男①。その高校時代の仲間4人がやってきた。
男①「なんだ、3人だって言ってたけど、人数合ってるじゃん。」
友「うん、まぁね」
背後で声がする。
男①「今日はよろしく!」
かなり上機嫌だ。
男①「コイツと同じサークルに入っている高梨です。で、コイツらがツレ。」
Tと、友人の友人が席を立って挨拶をした。
T「こんばんは。Tです。」
男②「加藤っーす。」
友人の友人「ヒロコです。」
男③「橋田でーす」
男④「かわいいコばっかじゃん。スゲー!テンション上がる!!安西です。」
次は間違いなく私の番だ。いつまでも座りっぱなしで振り向かない私に、全視線が集まる。
友人「あっ!で、この人が・・、ちょっと変わってんだけど、高校からの友達で・・・・」
ア「アンティルです。」
男達「・・・・・・あ、どうも・・・・・・・・」
目も合わさず立ち上がり、挨拶だけして再び座った私に男達がどよめく。
男①「なぁ!○○(友人)あの人オトコじゃないよな。何モン?!!」
男②「おいあの靴でけーな。普通のオンナじゃないよ。」
ヒソヒソヒソ・・・・・
友人「まぁ、とにかく座ってよ。」
一番出遅れたオトコが私の前に座る。
友人「じゃあ、改めて紹介するね。Tにアンティルにヒロコ。私はゆうこです。」
男達「うぉーホントかわいいね。高梨!今日はレベル高くて興奮するよ!!!」
合コン開始から2分、どの男達の目にもすでに私は映っていなかった。ガヤガヤガヤ・・・・
ア(心の声)『Tと話さなきゃ。いつからKと付き合っていたの?!!!』
高梨「まずはビール!!ジョッキで!!」
私の傷口からドクドクと血が流れる。疼き続けるその部分が鼓動のような音をたてる。それは私が生きていることの証のように思えた。