久しぶりの学校。
教室を入ると、一月ぶりの私の登場にどよめきが起こる。一番後ろの席へと続く道はちょっとした花道のようだった。ヒソヒソ ヒソヒソ大勢の視線が私を追いかける。 日射しが強く射し込む教室に影を落とすように、私は腰掛けた。
教室はキラキラとした光で溢れていた。
「私のサークルに すごいかっこいい人いるんだけど 倍率高くて狙えないの」
「この前 バイト先の友達とバーベキューやってね 盛り上がっちゃって みんなでそのまま私の家に泊まったの~」
もし自分がオトコを好きなオンナで生きていたなら、もっと楽に生きられたのだろうか。私はもう一つの人生を考えてみる。しかしその人生は私の頭には描かれなかった。
3限目の授業を終えた時、違う学部にいる友人が訪ねてきた。高校時代からの友人だ。
友「アンティル! あんたが学校に来てるって学校中の話題になってるよ。今まで何してたのよ。」
ア「別に何もしてないよ。家で寝てたよ。」
友「家に電話してもいないし。変な仕事でも始めたのかと思って心配したよ。」
ア「何、変な仕事って」
友「いや~まぁね・・・。そうそう今日Tと会うことになっててさぁ」
ア「!・・・・・」
友「サークル友達と合コンするんでTも誘ったんだ。」
ア「・・・合コン・・・」
友「昔よく行ったあの居酒屋でやるんだ。」
ア「何対何でやるの」
友「4対3なんだ。女子が一人見つからなくて」
ア「・・・・行っても・・・」
友「えっ」
ア「行ってもいいかなぁ」
友「えっ! あんたが!!・・・」
私は生まれて初めて合コンに参加することになった。
今日の服装は、ジーパンにポロシャツ。胸元のポケットの所にワニのマークが縫い付けてある白いポロシャツだ。時代は80年代。もちろん襟は立っている。女子でも男子でもありえるユニセックスな格好だ。しかし私のポロシャツには肩パットが入っている。華奢なカラダを少しでもイカツク見せるため、肩パットを2枚重ねて縫い付けた特別仕様だ。
『Tに会える!』
私は胸に巻いたコルセットをきつく閉め、夜を待っていた。
友「アンティル、何で合コンに行きたいの? っていうかその格好で行くの?」
ア「まぁね」
私と友人は待ち合わせの居酒屋に向かった。開店したばかりのお店には友人のサークル仲間だという、違う学校の女子が座っていた。
女「え?! 合コンとか行って彼氏も入ってんじゃない。」
友「コイツのこと?! 違うよ。アンティルっていうんだけど、オンナだよオンナ」
女「えっ!・・・・・・・・・・・・・・・」
ア「こんばんはアンティルです。」
謝り続ける女子の向こうで友人が苦笑いを浮かべる。3人はセットされた机を前に一列に並んで、残りの登場人物達を待っていた。
「ゆうこ!(友人の名前)久しぶり!!」
聞き馴染みのあの声が背後から飛び込んできた。Tの登場だ。私は勇気を出して後ろを振り返った。
ア「久しぶり・・・」
T「っあ・・・・・・・・・・」
波乱の合コンがスタートした。