10畳ほどの狭い部屋。“処女である”Wがまっすぐに私を見据えている。
その事実に衝撃を受けた私は、なおさらWとセックスできないと目をそらした。
長年コンプレックスだったという、大きめの乳房が私に決断を迫る。
恥ずかしがるわけでもなく、堂々と迫るW。その目は完全に覚悟を決めている。
ア(心の声)『もう逃げられない・・・・』
そう悟った私は、頭の中でセックスに向けてのイメージトレーニングを始めた。
イメージの舞台はこれまでTと行ったもっともエロいラブホテル、鶴や。昔の置屋をそのまま使ったホテルだ。部屋の照明は行灯。部屋と部屋を遮る壁の上部が障子張りになっていて隣の行灯が動くのが見えるようになっている。セックスの声と共にその灯りは動きを変え、激しく動いたり、穏やかに止まったり、それはその部屋の人達のセックスを映す映写機のようだった。私達が動けば止まっていた灯りは再び動き、そして激しく揺れる灯りに刺激され、私とTも行灯の灯りを揺り動かす。それはちょっとしたハプニングバーだった。
ア(心の声)『そうだ!鶴やだ!ここは鶴やだ!!』
私は心の中で鶴やと連呼する。
W「アンティル・・・」
その声を聞いたとき、鶴や私の心の中から消えた。
ア(心の声)『Tじゃない・・・・』
Wを抱き寄せようと腕を上げようとしてもどうしても腕が上がらない。
あんなにあった性欲を自分のカラダの中から一欠片も探すことができない。
その時だった。私の左の中指に異変が起こった。もっとも膣の遠いいところまで届く大切な中指だ。
ア「痛いっつ」
これまでに感じたことがない激痛に思わず指を抱えてしゃがみこんでしまった。
それはこむら返りと骨折を同時に併発したような味わったことのない痛みだった。私はひっしに右手の中指と親指で中指をマッサージする。しかし触るだけで左の中指は悲鳴をあげる。
ア「うっ中指が!・・・・」
そして私はこの痛みによってWとの局面を回避することができた。
その10分後、Wは倒れこむように眠りについた。
私は痛みが緩んだ左中指をさすりながら、ソファーで目を瞑った。
夢の中で鶴やの行灯が揺れていた。