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今月の八日に秋葉原で事件が起きた時、私は職場のビデオ屋にいました。そのことを最初に聞いたのは、別の店で働いているバイトちゃんからでした。
家にいてテレビを見ていた別のバイトの子から携帯に情報が入ったようです。

夕方ごろ、初めてテレビで事件の報道を見ました。十何人の人が死傷し、二十五歳の男が逮捕されたことを知りました。ひどいことが起きた、と現場の混乱を想像して震えました。

日が経つにつれて、テレビや新聞から様々な情報が入ってきました。殺された人たちの写真、現場に献花する人々の映像、犯人の男についてのあれこれ、そして男の両親の謝罪会見を見ました。後に棒読みだと言われた平坦な父親の声と、泣き崩れて立てなくなった母親の姿が映りました。棒読みも泣き崩れることも不思議とは思いませんでしたが、テレビに出なければいけない状況を不思議に思いました。

被害者とその遺族への謝罪の意味はわかりますが、なにもテレビに出なくても、と思いました。そのほかには、誰に謝っているのでしょうか。

一週間後、職場のオーラちゃんが「週刊現代」の記事を紹介してくれました。そこには加藤容疑者の弟の手記が載っているそうです。オーラちゃんはコンビニで立ち読みして、ちゃんとした記事で読んでよかった、といいます。加藤容疑者の育った家庭環境について憶測が飛び交っているなかで、身内だけが知っている事実を明らかにすることは意味があると感じたようです。
私は読む気がしませんでした。それは、容疑者の両親がカメラに向かって謝ることへの不思議と重なり、さらに弟が登場することに違和感を覚えたからです。

それでも私はオーラちゃんと話すべく記事を読みました。
「驚くべき加藤家の真実、弟の告白、狂気の兄と歪んだ母の愛」という太いゴシックの見出しです。二十二歳だという弟は、この手記を発表するに至った理由を、「被害者・遺族の方々に与えてしまった、想像を絶する苦痛、また、国民の皆さんに与えた不安を取り除くためには、謝罪だけではなく、事件に関して何らかの説明をすることが必要だと思いました」と書いていました。

書かれていた内容のほとんどが母親の話でした。父親については、「子どもに干渉するタイプではなかった」とサラリと流しています。母親が二人の息子にどういうふうに接してきたかを細かく記憶を辿って延々と続きます。

母親の言うとおりに作文を書かされたこと、テレビを自由に見ることができなかったこと、女の子からの年賀状が冷蔵庫に貼られ異性と接触するなと言われたこと、など、それに理不尽な怒りや恨みを感じたことも記されていました。けれど、と中盤に来て弟は、二十歳のときに母親に謝罪されて自分は母親を許すことができたと語り始め、兄は今でも強烈に親(と表記。ここへきてやっと父親が入ったか)を恨んでいるはずだ、といいます。そして後半になり、現在兄がしている謝罪と反省は嘘っぱちだと、兄を非難し始めます。自分たち兄弟は、「他人から良くみられることを徹底的に意識するような教育」を受けてきたからだ、とその理由を述べました。そして最後に、兄が親への復讐のために事件を起こしたのかを会って聞いてみたい、といいます。

「親への恨みが世間に同情されるためのポーズだとしたら死刑にでもなんにでもなればいい」「本心で親を憎んでいたとしても死刑になるでしょう」「でもそれでも私は言いたい。たしかにうちの家庭は変わっていて、自分たちの人格形成に強い影響を与えたかもしれない。しかし、事件を起こしたのは親のせいではない、と」

長い手記を読み終えて、けっきょく何が言いたかった文章なのか(自分のことは棚上げして)、よくわかりませんでした。母親の話は、誰かに聞いてもらいたかった話だと思われます。その気持ちはわかります。けれど途中一転して、兄との違いを強調して自分のように親を許すべきだという展開には、もはやなにを主張しているのかわからなくなります。ただ、「まともな俺」を主張したかっただけなのではないか、と穿ちます。彼が述べている通り、その「教育」のせいでこの手記自体がなにかのポーズになっているのではないか、とまで思いました。

「誰かにかまってほしかった」というような発言を加藤容疑者がしたと報道されています。その弟の手記を読んで、弟はかまってもらえてよかったね、と思います。けれどこの展開だと、母親がスケープゴートにされてしまうような気もします。
以前・・
髪を切った男子に「かわいくなったね」と言ったとたんに、彼は壁を殴りました。
あとで、バカにされたと思った、と言いました。
シフトを言い忘れた男子に三ヶ月間、嫌な顔とシカトをされました。
あとで、ずっとかまってくれなくてさみしかった、と言っていたと聞きました。
これまでの職場で出会った男子たちです。そのあと私はますます彼らと距離を置くようになりました。怖いからです。
「あなたは飲むのが好きなんだから、彼に声をかけて一緒に飲みに行ってあげればいいじゃない」と、時々周りから関係を良好にするためのアドバイスを受けました。「彼の話を聞いてあげることから始めないと」。
でも、できません。

「男は大事にされるべき」という既得権が、人を殺したあとの男の発言から、過干渉だったと息子に告発されてそれを許される母親像と、その手記の在りようにまで、深く根を張っているような気がします。そこに水をやるようなことはしたくない、と思うのです。
水をやることと、加害者家族の謝罪と釈明を当然のように求め裁く「関係者以外」になることは、入れ子のような気がします。
明日、オーラちゃんにそこのところを伝えることができるかどうかは不安です。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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