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Tは玄関でいつまでも私の背中から手を離さなかった。
「今更なんだよ!」
「会いたかった!」
「なにかあったの?!」
「やっぱりTしかいない!」
「これ以上私に構うな!」

言いたい言葉は山ほどあるのに、口に出せる言葉が見当たらない。私は腕をダランと伸ばしたまま、黙って突っ立っているしかなかった。

T「アンティル私...」
どの位の時間が経ったときだろう。Tが私の顔をうかがうよう顔を上げた。
ア「何?」

平静を装う精一杯の一言だった。
久しぶりに会ったTは髪型も化粧も服装も変わっていた。私もあの時のまま変わっていないと思われるのがしゃくで、覚えたての煙草に火をつけた。

ア「コーヒーでいい?」
T「うん。」
目がチカチカするのを我慢してくわえ煙草で私はコーヒーを入れた。
T「私ね。新しい友達がいっぱいできたの。アンティルに話したいことがたくさんあるの。この前なんか、アンティルが好きな自動販売機が3つも並んでいる所みつけて、すぐ電話したかったの」

“自動販売機”。思わずその言葉に反応しそうになって慌てて言葉を飲み込んだ。
T「はい。砂糖ないけど。」

私はありあまるほど持っているスティクシュガーをないものにした。クールな大人はブラックコーヒー。私にできることはみえみえの背伸びとTと目を合わさないことだけだった。

T「それでねA子がね・・・すごい面白い子なの。あとC子も・・・・」
苦くて飲めないコーヒーがカップの中でくるくる回っている。
T「それでね。アンティル。ねぇアンティル。」
ア「聞いてるよ。楽しそうだね。」
そう言いながらTの目を見てしまった瞬間、Tは私に抱きついてきた。その手を拒むことはもうできなかった。遠くで鳴り続けるサイレンがどんどん私の耳から遠ざかっていく。私はTの声と自分の声しかしない世界へと押し出されていった。
T「私ね。アンティルがいなきゃ駄目なの。」
答えちゃいけない答えに私は答えてしまった。私はTの首もとに自分の顔を埋めた。
ア「でも、Kとはどうなってる・・・・」
私の背中に回したTの指がその答えを何より物語っていた。
私の部屋にまたサイレンが鳴り響いた。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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