トゥルルルル トゥルルルル
私は何コール目で受話器を取るか迷っていた。
トゥルルルル トゥルルルル
こみ上げる怒りはあっても“出ない”という選択肢はとうにない電話。
トゥルルルル トゥルルルル
魔の手が忍び寄るように私の耳に迫るトゥルルルル。
ガチャ。
私はTからの電話を8コール目でとった。
T「元気だった?(いつもと変わらない明るい声)」
受話器の向こうから車が走る音がする。
T「あのね。会いたいの。」
ア「会いたいって・・・・」
私の頭にTとKのイチャイチャ姿が生々しくと浮かぶ。
T「だめ?これからどう?私、車買ったからそっちに行くから」
ア「どういうこと。だってKと・・・」
そう言いながら私はその続きを言うのをやめた。
『Tに会いたい!』私の胸の奥の奥に静めたはずの想いがカラダ中を駆け巡り熱くする。やっとの思いで閉じ込めた想いが吹き出たらもう、どうにもならない。
ア「・・・・いいよ。ちょっとなら。」
その気がないフリをして電話を切った私はタンスの引き出しを急いで開ける。そしてしまいこんだコーラの瓶を取り出した。
ジャージャージャー
洗面所に急行してコーラに石鹸を塗る。
ジャージャージャー
鏡に写る私はほのかに微笑んでる。私は病んでいた。病名は“T中毒”。
Tが来るまで1時間。伸びきった爪にT専用の爪切りをあてる。
ピンクと銀色のよく切れる爪切り。
急いで切って爪の横の肉まで切り込む。
「イタッ!」
それでも私は笑っていた。
トゥルルルル
T「今アンティルの昔の家の近くなんだけど。今のアンティルの家はどこなの?」
そう。Tといたいがために始めた一人暮らしのその家に、Tが来るのは初めてだったのだ。Tが好きなモノトーンの部屋。NYの夜景の写真がベットサイドに貼ってある私の部屋。Tが好きな・・・
ア「コンビニの角を曲がって次の交差点を曲がって2軒目の白い建物の4階の一番奥。」
とうとうTがやってきた。
ピンポーン
急いで出ると再会を喜んでいると悟られてしまうから玄関の前でまだドアノブを握らないでいた。
ピンポーン
ガチャ
T「本当に一人暮らしなの?」
ア「そうだけ・・・」
“ド”といいかけた時、Tが私に抱きついてきた。
T「会いたかった。」
Tは泣きながら私の背中に伸ばした手をギュと握った。
私とTの長い泥沼ラブストーリーの第2章が始まった。