私とWの出会いはどんな意味があったのだろう。
私はWを通しWの母親の人生を知った。オンナが好きだった2児の母。私と同じオンナが好きなオンナに当時、私は共感を抱かなかった。愛する人を失い、去っていった恋人の背中を見続けていた私とWの母親。それでも私はWの母親に自分を重ねることができなかった。
Wの母親に初めて会ったのは亡くなるの半年前だった。Wの家から車で30分。坂の上にその病院はあった。冷たく光る病院の廊下を進み、Wの後ろに隠れるように私は階段を登っていった。ベットに寄りかかり座るWの母親は、ひどくやせ細り目だけが強烈なエネルギーを放っていた。
Wは病室で母親からカミングアウトを受けた。余命宣告を受けて互いに時間がないことを知ったWの母親は“オンナが好きな”自分の人生を娘に知ってもらいたかったのだろうか。Wに自分の経験と葛藤する想いを託すように話したという。
Wの母親にはIさんという恋人がいた。IさんはWと同じ団地に住む、一つ上の階の住人だった。Wより3つ上の息子と夫を持つIさん。Wの母親は夫とのトラブルを抱え悩んでいたIさんを助けるために、Iさんの夫に立ち向かっていった。そして2人は恋人同士になったのだ。旅行にいったり、部屋で過ごしたり・・・・。団地中で噂になりながらも2人は時間を共有していた。しかし、その時間も、ある男の出現で一瞬にして消えてしまった。IさんはWのお母さんのもとを離れて行ったのだ。Wのお母さんはIさんへの想いを娘に告げた。断ち切れない想い。会いたいという気持ち。娘に甘えるようにWの母親は自分の心を話していたのだ。
子供の頃から知っている顔見知りのおばさんと母親との関係を知ったWは、近所の噂話でもするようにお母さんとIさんの話を私に話して聞かせた。
Wは自分の母親が“オンナが好き”だということを知りショックを受けていた頃が嘘だったかのように、その物語を受け止めていた。しかし、Wを待っていた二人の物語には続きがあった。それはWの想像をはるかに超えるものだった。母親の口から娘に知らされた一つの事実。それは、Iさんの恋人が自分の父親だという事実だった。