驚きのディルド付きバランスボールをひとしきり楽しんだ私は、さらなる斬新な商品を目指して会場を歩き回った。私には一つの目的があった。このコラムを漫画化して連載している坂井恵理さん作の「うで毛放浪記」(ぶんか社)に、このセクスポを取り上げるための取材をするという目的だ。首にはカメラ。左手にメモ帳。右手にボールペン。商談する人々を横目にパシャパシャと写真を撮りながら、私はネタになる斬新な商品を求め会場を彷徨っていた。案内人は、セクスポの達人、北原みのりさんだ。
北「もう1階には良さそうなものがないから2階に行こうか。」
アダルトグッズメーカーのブースが並ぶ会場1階を後にした私達は、2階へと続く長い階段を昇って行った。
この日のセクスポは、ビジネスライセンスを持つ人だけが入るビジネスデーだった。
1階フロアーは商品の華やかさとは相反してみなもくもくと商談していた。しかし2階の雰囲気はなんだか違う。何やらただならぬ空気が張り詰めていた。デジカメやカメラをぶら下げた男達がムンムンと犇めき合っているのだ。
北「ここはAVのフロアーだよ。」
会場に入ろうと、たくさんの男達が集まっていた。2階受付まで20メートルという所にも人があふれている。男達に囲まれながら、私と北原さんはダンスミュージックが大音量で流れ、キラキラとした照明が揺れているAVフロアーに潜入した。
1階とは違い2階は天井が高い。その天井をめいいっぱい使うようにどのブースも大きな看板を建てている。一つのブースで30畳ほどの広さがある。そしてどのブースにもステージがあるのだ。舞台にはセクシーな衣装を着た女優たちがポーズを決めている。実物の車の上で寝転びながらポーズする人、ポールダンスをする人、サイン会を開いている人、カリスマらしき人のサイン会には長蛇の列が出来ている。私はカメラを押すのも忘れ、目の前の景色に唖然としていた。仕事で来ているはずの男達がまるで遊園地の子供のようにはしゃいでいるのだ。私はちょっとそこにいるのが怖くなった。
『欲情した男に痴漢されたらどうしよう。』
髭をボウボウにはやしながらそんなことを考えている私の背中を誰かが擦っている。
「痴漢!」
私の背中を触っていたのは北原さんだった。
北「取材用にあの人と一緒に写真撮ってもらったら?」
ア「・・・・・・・・」
北原さんが指した指の先には、ちょーセクシーな衣装をつけた巨乳の女優がいた。
スポットライトの下で、俳優さんの肩に手を回し、にっこりと笑う男達が記念撮影している。どうやら有名な女優らしい。
ア「えっ!でも・・・・・」
躊躇する私の首から北原さんがカメラをはずす。
北「撮ってあげるから行きなよ!」
しょうがなく私は記念撮影の列に並んだ。
『どうしよう。(ドキドキ)肩に手なんか回せないよ。でもアメリカだから何もスキンシップとらないってのも失礼になるかもしれないし、手つなぐのも変だし、あの男みたいに抱きついてもらうのもちょっとなぁ。あーあ困ったな・・・・』
ついに私の番が来た。事務的に記念撮影に応じるその人の目が笑っていないのがよくわかる。こんな目をした人の前ではしゃげる男達は凄いなどと考えているうちに、私はその人の横に立った。パシャ。顔を引き攣らせた私と目が笑っていない女優。2人のツーショットはエロとは無縁の写真となった。(この時の模様は次回の「うで毛放浪記」に掲載する予定です。)