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私はアンティル Vol.104 アンティルから茶屋ひろしさんへ

アンティル2008.01.03

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茶屋ひろしさんへ

今日は一段と寒い朝です。鼻の具合はいかがでしょうか。私もこの寒さで古傷が痛んでおります。私の古傷は肋骨と胸にあります。あれは小学校3年生の時だったでしょうか。節水で止まっていた噴水で遊んでいた時でした。水が吹き上がる長さ30センチ、太さ3センチほどの円柱状の鉄のパイプの上を、綱渡りのをするように歩いていた時、刺さったのです。肋骨にズブッと。足をすべらせ強打し、肋骨を折ってしまいました。

しかしそんな大事になっているとは思いもよらず、20分歩いて家まで帰宅。寒さで震える私に、母は温かいうどんを作ってくれました。あの時のどんぶりのぬくもりは今でも忘れられません。そして幸せな気持ちに包まれながら、うどんに箸にからめすすろうとしたその時、私はようやく異変に気がつきました。どんなに吸ってもすすれないんです。口にうどんが入ってこないのです。ツッーツッッー・・・思いっきり息を吸い込んでも音だけがむなしく響き、箸にからまるうどんは微動だにせずSTAY。

それは肋骨が折れていたため、息を吸い込む力がなくなっている状態だったのです。キッッ。もう30年近く経っているのにまだこの季節になると痛みだします。

そしてもう一つの古傷は切除した胸です。特に切り取った乳輪がに痛みます。胸の脂肪を吸い取る入り口として切り取られ、吸引後その傷口を貼付けるという大役を果たした乳輪は、体力を消耗したらしく毎年この時期になると悲鳴を上げます。それはミシミシと軋むような痛みです。もう手術から何年も経つというのに、未だに手術痕を残す私の平らな胸。その胸は男の胸を手に入れたというより、脂肪を抜き取り、えぐった痛々しさが強調された異様な形をしています。手術をしてみて私は知りました。”女の胸から脂肪を抜き取れば男の胸になる”というようにオンナの胸とオトコの胸の関係はきれいな反比例は描かないのです。それはホルモンも同じでした。男性ホルモンを打てば女性ホルモンがなくなるというわけではなく、男性ホルモンの有無関係なく、女性ホルモンは独自のものとして存在しているのです。女性ホルモンが少なくなるのは、それを分泌する機能が低下するからであって、男性ホルモンの侵略によるものではなかったのです。

”胸があるかないか””ちんこがあるかないか”そんな有る無しで考えていくと、しっかり引くことができる女と男の図は実は幻想でした。その境目にあるのはなんともぼんやりしたぐちゃぐちゃとしたもののようです。
オンナらしさ、オトコらしさに戸惑うことなく生きる人々と出会う時、私はいつも思います。
「こんな生き方もあるんだぁ~」と。
それはとても不思議な感覚です。私がその“人々”の一人として生まれてくる可能性だってあったはず。でも今の私にとって、その生き方は、あまりに違い過ぎて、あまりに新鮮すぎるのです。
違う価値観の中で私はどのように生きられているでしょうか。自信はありません。

私は男の集団の中で男として生活する時、自分が“オトコらしく”ないことを実感します。それは男達の態度から感じることが多いのです。どうやら男にはオトコ的でないものを感じる敏感なセンサーが回っているようで、少しでも“俺たちの世界と違う”というものを発見した時にサイレンがなるようなのです。私はそのセンサーによく反応するらしく、異物として扱われることが多いようです。

“あぐらをかかず両足を片側に投げ出して座る”“俺さぁと言わず私と言う”とか見た目や上辺のことに反応するのではなく、“雰囲気”を感じ取る敏感なオトコセンサー。そのサイレンを鳴らさない数少ない人達が、私の数少ない男友達となっています。
私はたぶんオトコらしさに全身を埋めることはできないと思います。うまくかわすことも出来ていないのだとも思います。そして、同じようにオンナらしさで心を覆うこともできません。ホルモンや胸の除去手術は私に“男”“女”という言葉が持つトリックを教えてくれました。人間がつけた“男”“女”の記号は対で存在することを表し、共に存在することを拒む装置です。同じ線上に生きる行き来可能な存在であることを知った今、私は再び自分を表す言葉を失っています。

最近今一緒に住んでいるAと、私の呼び名についてちょっとした喧嘩になりました。“きっこ”と呼びたいAと“きし”と呼んでほしい私。姓名判断によると改名前の女子名より、そこから“子”を取った名前のほうが数段いいらしく、気に入っている“きし”という名前。しかし名前を変えても呼び名が変わらなければ、運命も変わらない。

ア「きっこと呼ばないで!」
私はAに抗議をしました。
A「だって、きっこに慣れちゃってるんだもの」
譲らぬAに私は本気で呼び名変更の申し入れをいれました。実はその時、私の中であのサイレンがなってたのです。“オンナ注意報!オンナ注意報!”きっこと呼ばれることで、“オンナ”を人から求められることへの恐れが、私のカラダにサイレンを鳴らしていたのです(Aが私に”オンナ”を求めているわけではないのですが)。
「私は“きし”が気に入っているの!」
あまりにまじめに訴える私にAはしょんぼりと頷きました。
『ごめんねA。』
心の中で私はそうつぶやきました。しかしその反省は数秒後、後悔へと変わりました。

ア「きしの(=私の)お皿もとってくれない?」
A「初めてお目にかかります。きしさんとやら。あなたのお皿はこの家にはありません。」

Aが“きし”と私を呼ぶまで、サイレンは続くのでしょうか。私の中にも敏感なセンサーが回り続けています。
次回は茶屋さんです。先日の忘年会ではキラキラとした茶屋さんオーラを前に私は自分のオーラの暗さを思い知りました。そういえば茶屋さんが歌った、越路吹雪の「ろくでなし」も上手かったなぁ~。また聞きたいなぁー。では私がお店をのぞく時に限って留守な茶屋さんに質問を託します。
茶屋さんは自分の名前って好きですか?あだ名とかありました?ちなみに私は高校の時、私の知らないところであだ名を付けられていました。あだ名は“男”です。茶屋さんにあだ名をつけるとしたら・・・・次回お会いするまで考えておきます。

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アンティル

アンティル(あんてぃる)

ラブローター命のFTM。
数年前「性同一性障害」のことを新聞で読み、「私って、コレかも」と思い、新聞を手に埼玉医大に行くが、「ジェンダー」も「FTM」という言葉も知らず、医者に「もっと勉強してきなさい」と追い返される。「自分のことなのに・・・どうして勉強しなくちゃいけないの?」とモヤモヤした気持ちを抱えながら、FTMのことを勉強。 二丁目は大好きだったが、「女らしくない」自分の居場所はレズビアン仲間たちの中にもないように感じていた。「性同一性障害」と自認し、子宮摘出手術&ホルモン治療を受ける。
エッセーは「これって本当にあったこと?」 とよく聞かれますが、全て・・・実話です!。2005年~ぶんか社の「本当にあった笑える話 ピンキー」で、マンガ家坂井恵理さんがマンガ化! 

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