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以前、この世に母性なんてない、という文章に出会ったとき、私は、そうなんだー、と安心して、やったね、と嬉しくなったものでした。フェミニズムの言葉たちは、いつも、目の前にあった壁を崩してくれるような気がしました。最近は、壁を透明にしてくれていたのではないか、とも思います。壁はあるが、見通しがよくなる、という感じでしょうか。

そんなことを思い出したのは、先日ひさしぶりに「母性」という言葉を聞いたからです。
ゲイバーで知り合った40歳の男性は、26歳以下の男子でないとイケない、という人でした。イケない・・26歳以下でないと、恋に落ちないというか、付き合いたいと思わないというか、そういうふうに好きにはならない、というか・・。
ふーん、そうなんだ、なんで? とその話題が酒の肴になり始めました。わからないけどオレの精神年齢が26歳で止まっているからじゃないか、と彼は言います。
精神年齢が26歳といわれても、なんだかピンと来ません。

その頃に大きな失恋があってそれを取り戻したくてそれ以来ずっとその恋と同じような展開を望んでいるのか、と想像して実際にそう聞いてみようかしら、と思いましたが、その失恋話を聞きたい気分でもありません。って、まったく違うかもしれません。
なので、なんでだろうねー、と会話をリセットしてみます。彼は再度、違う答えを出さなくてはいけなくなりました。すると、「母性かもしれない、いや、これは母性だよ」と言いました。

「もうさー、とくにセックスなんかしなくてもいいわけ、いっしょにご飯食べて、おしゃべりして、寝るときも添い寝でいいんだよ。なんか見守ってあげたい、ってだけなんだよなー。これって母性でしょう」
「うそ。それ、嘘」
反射的に私は否定していました。おかげで、どこの部分を嘘と言ったのかを説明しなくてはいけなくなりました。
まず、「母性なんてないんだよ」と、冒頭の句を投げやりに唱えてみました。もはや呪文のようです。彼は、「あー、ないかも」と、やわらかい反応をしてくれます。
続いて私は、「母性という言葉は、自分の中のどろりとした欲望をキレイなもののように誤魔化すときに使うんじゃないかと思う」と述べました。

母性は「エロ」に関係しているように思うのです。だから、私は彼の発言で、「セックスしたいと思わない」と「母性」がつながらなくて、それは嘘だと言ってしまったのでしょう。
母は息子とセックスをしたいと思っている。
というのは、私の思う現実のひとつです。母性という言葉の壁の向こうに見えるものです。これは以前、佐野洋子さんのエッセイを読んで言葉になっていった考えです。佐野さんは、息子とセックスをしたい、とは書いていませんでしたが、「私は息子を溺愛している、世界中のどんな男よりも好きである、だから息子よ、私から必死で逃げなさい」というようなことを書いていて、笑って読みながら少し背筋が寒くなる思いをしました。これは本当だわ、と思ったのです。
年下好きの40歳は、「たしかに、母性というより執着と言ったほうがいいかもしれない」と、ひとつの答えを出しました。
私の母親は、私を溺愛しています。それをナマナマしく感じるようになったのは高校生のときです。何かの拍子に、頬にチュウとされたことがあって、そのときに「気持ちわるい」と思ってそう言ったのが始まりです。
「なにが、気持ち悪いねん。お母さんはこんなにヒロシのことを好きやのに」と甘えられて、その場から逃げてしまった記憶があります。

そのあとに佐野さんのエッセイを読んで、私は、母は息子にエロを感じている、というように理解してしまったのだと思われます。
今も、母性という言葉がその欲望を隠しているような気がしてならないのです。
でも、母と息子、と一般的に言ってみても、チヨコ(母の名前)とヒロシ(私)、という個人の話にすぎないかもしれません。母性でも母でもなく、チヨコの話なだけかもしれません。
と、ここで私は恐ろしい疑惑に囚われました。
私は男子を好きになったときに男子の前でチヨコになっているのではないか。だからよく逃げられるのではないか・・。
40歳に確認してみました。
あなたはいつも、26歳以下の男子に自分の母親が自分に接してきたように接してはいないか。
「それは・・わからない・・」と言いました。
そうか、これは40歳の話ではなく、私の話でした。
すると、「・・そうかもしれない!」と彼は目を開きました。
「ね、そうかもしれない!」
共感を得て、私は興奮してしまいました。
可愛い年下の男子に接するときに湧き上がる「アレ」は、母性という名のエロや執着というより、家庭習慣なのかもしれません。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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