ゲイの世界にはハッテン場という所があります。1000円とほんのちょっとで入れます。受付でお金を払ってロッカーの鍵を受け取ります。ロッカーのあるスペースで服を脱いで、そこの場所で指定されている格好になります。全裸、タオル一丁、パンツ一丁、下着はなんでもいいのか、ケツ割れサポーターか競パンか、はたまた六尺褌か・・。
荷物と脱いだ服をぜんぶロッカーに入れたら鍵を閉め、ほとんど裸で暗い廊下を歩きいていきます。シャワー室やサウナもあります。奥に進むと、廊下にベンチが幾つか用意され、その裏には板で仕切られた一畳ほどの広さの個室が続きます。扉が開いていたら中を覗けます。しばらくすると大部屋が現れます。布団かマットが一面に敷かれています。暗闇に赤い電球が点されたその迷路のような空間に、裸になった自分と同じ姿の男たちが、日夜、誰かとセックスをするために集ってくるのです。
ということで、初めてハッテン場に行って来ました。
事の発端は、新年早々、サチオちゃんにフラれたのが始まりです。年末のコラムに何回か書いた、カラオケ友達のあの子にフラれました。
言ったセリフは「付き合ってください」でしたが、内容は(あなたと寝てみたい)が正しい気持ちでした。サチオちゃんは少し困った顔をしたあと、「茶屋ちゃんにエロは感じないの、ごめんね」と言いました。ぜんぶバレていました。そのあと、「茶屋ちゃんには僕のお姉さんでいてほしい」と言われました。
お姉さん・・そうね、セックスよりは得意かも・・。
けれど、とほほな結果だと思いました。あまりセックスをしない生活のツケが来たのか、肝心なときにしたい人とエロができないと、哀しい。
エロってなんだっけ、色気ってどういうの? と、それからしばらくのあいだグルグル頭がまわり続けました。誰かに、エロいとか、色気あるね、とか言われた時のことを思い出しました。でもあれはたぶん、女っぽいという意味ではなかったか。それはけして、ゲイ受けするエロさではなかったように思いました。
サチオちゃんはゲイっぽい男が好きだと言います。それは、女っぽい男ではなく、短髪・髭の男っぽい男が好きだという意味です。ゲイはみんなそう言うわ、と投げやりに思いました。私が短髪・髭になることは体質上無理があるので、せめてゲイ受けする色気を手に入れようと思いました。未練かもしれません。
ということで、ハッテン場へ行ってその辺を試してみることにしたのです。
とはいえ、私にとってハッテン場は怖い所です。HIVやSTDのリスク以前に、知らない人といきなりセックスをするということが怖い。ほとんどしたいと思わないのです。前に上野にあるゲイポルノの映画館を見に行ったときは、10分もいられなくて逃げ出してきた私です。そこもハッテン場のひとつです。暗闇の中で映画を見ながら隣の人と触りあうとか、そういうことをするわけです。私には痴漢がいっぱいいるとしか思えませんでした。そういうことをしたい人が来ているので、私がそこでは論外でした。
じゃあ、行かなくていいよ、と思って、それ以来ハッテン場への興味をなくしていました。
前知識を、と、ゲイ雑誌のハッテン場特集を読み返しました。都内だけでも30軒くらいあります。それぞれの店舗の情報を読み込んでいくうちに、「入場条件」というものが細かくあることに気がつきました。年齢制限はさることながら、体重制限に体型制限、あとは「オシャレな方以外入店禁止」というところもあります。受付のバイトちゃんに適当に判断されてしまうのでしょうか。あとは、「35歳以下でも35歳以上に見える方はお断り」というものまであります。「50歳以上」というところもありました。
ということはこの時点で、私が入れるハッテン場が限定されてしまうのです。
もちろん「条件なし」のところも幾つかあります。体型のタイプも「幅広」とか書いています。でも外国人やお年寄りとしたいわけではないし、もっと身近な感じで厳しすぎない条件のところは・・、と探して何点かピックアップしました。
休日が来て、私は行こうと思いました。が、その日は行けませんでした。なんだかとても勇気がいります。行けなくて落ち込んで休日を終えました。次の週の休日、私は前夜から自分に追い討ちをかけ、夕方にとうとう家を出ました。自転車で向かいます。三軒まわろうと思いました。じっくり楽しみたいという余裕はなく、ババっとたくさん一気に早く終わらせたい企画です。
一軒目は、もう20年以上やっているという老舗のハッテン場です。外観は一軒家でした。中に入っても家みたいで、あまりドキドキしません。一階で服を脱いで、二階に上がると、風呂場と真っ暗なサウナがありました。風呂場では誰かがシャワーを浴びています。私はサウナに入りました。真っ暗でしかも迷路のようなつくりになっています。あちこちの角からスチームの噴き出す音が聞こえます。怖いというより危ない。手探りでゆっくりと一周しました。出るとシャワーを浴びていた人はもういません。
踊り場に出るとその人が椅子に座ってタバコを吸っていました。ハゲ、筋肉質、胸毛、股間はタオルで見えない、45歳。チェックして三階へ。電気の消えた八畳ほどの部屋に布団が敷き詰められています。入り口側に、頭まで白い掛け布団をかけた人が2人別々に転がっています。白い大きな蓑虫のようです。どうしろというのでしょう。あとは踊り場の人しかいません。
私は階段をかけおりて、「帰りまーす」とフロントに告げ、ロッカーの鍵をもらいました。
自転車に飛び乗った私は、ダメじゃん、と自分を叱咤しました。不甲斐ないような気がしたのです。踊り場の人でいいから手を出せば良かったのに。
新宿方面へ向かいます。次のところでは、どうにかなんとかしなければいけません。(続く・・)