Tとの別れは私から睡眠を奪っていった。あの日のTからの電話が忘れられず電話を見つめながら過ごす日々。鳴らない電話は絶望的な寂しさへと私を落とし入れ、頭を掻き毟っても消えることがないTとKの姿が私の心に嫉妬と孤独を植えつけていった。誰かに言うことができないという状況が、私をさらに深い闇へと誘い、一つの問いを投げつける。
「おまえは本当に生きていていいのか?」
オンナが好きな私の存在を認めてくれるただ一人の人を失い、私の存在を否定されたショックは、“私の生”を問いただす剣となって毎夜私にせまってきた。夜が怖かった。一人になるのが怖かった。私は自分の心を守るためにWの家に転がり込み始めた。
徹夜でWと車を乗り回し、朝方、Wの家で2、3時間の睡眠を取って、そのまま学校へ直行。私は誰一人、居眠りさえしない進学校の高校のような授業の中で、ようやく闇へ引きずれこまれる心配をせずに眠りにつくことが出来た。
Wの様子が変わってきたのは、5月になろうとした頃だったか、。Tを忘れようと、もがくようにバカ騒ぎする私と比べ、Wの顔が日に日に生き生きとし始めたのだ。
「今度遊園地に行きたいな~」
Wの声がやけに甘い。私は出来るだけ“いい雰囲気”にならないように努力して誘いをはぐらかしていた。
「そうだね。じゃあ○○さんも誘わない?!」
「っう、うん・・・」
ある夜私とWは、Wの家から4時間ほどかかる海を目指しドライブしていた。空には満点の星空、カーラジオからはメロウなR&Bが流れていた。その時だった。Wが私の肩にカラダを寄り添わせてきたのだ。初めてWの家に行ったあの夜と同じように、Wの髪の香りが私の全身を包むように流れ出してきた。しかし、今は運転中。あの時のように寝たふりはできない。
ア「どどどどうしたの?・・・」
W「私最近、変みたいなの・・・」
ア「え!何が?!・・・・・・・」
W「ずーっと考えてるの」
ア「何を・・・・・」
W「早く夜がこないかって・・・」
ア「・・・・・・・」
逃げ場のない私の腕にWの腕が絡まるように重なっている。私は聞こえないふりをしてアクセルを踏み続けた。その夜、Wの腕が私から離れることはなかった。