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捨ててゆく私 Vol.52「二丁目とノンケ」

茶屋ひろし2007.11.29

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もうクリスマスのシーズンに入っているんですね。新宿にネオンが増えました。
前回に引き続き、もう少し「二丁目とノンケ」について書いてみようと思います。

来週、テレビ東京の「アド街ック天国」という番組で、新宿二丁目が取り上げられるそうです。それはタウン情報番組で、二丁目が出るのはこれで3回目だということです。そういえば先月、ウチの本店の方に取材が来ていました。その時、テレビ局のスタッフの男の子と少し話したら、飲食店を中心に30件くらい取材するのだ、と言っていました。
昨日ひさしぶりに行ったゲイバーも取材を受けたらしく、その話になるとママがため息を漏らしました。
「(テレビに取り上げられることは)べつにいいんだけどさ・・。テレビを見たノンケの人たちが来るわけでしょう。その対応がめんどくさいなと思ってさ・・」

ママが言うには、ノンケの客には二種類いて、ひとつめは、ゲイを下に見るために来る人たち(わざわざ来てキモイとか言う人・・いっぱいいます)、もうひとつは、セクシュアリティの違いを理解したうえで、仲良くなりたい、という気持ちで来る人。
後者の人たちになら、ゲイはみんな女装(見た目)しているわけではないとか、みんながオネエマンズ(考え方)ではないというようなことを、見せたり伝えたりすることに意味があると思うけど、テレビに出ることによって前者のようなノンケの相手もしなくちゃいけなくなるだろうから、それが面倒なのだ、という話でした。

ここひと月くらいの間に、私はいつも行くバーで毎週のように新規のノンケ客に遭遇しました。
一回目は、そのママの言う、前者の面倒なノンケでした。その日は、ママではなく、ヘルプで入っているNさんという40歳くらいのゲイの人が一人でお店を回していました。といっても客は私一人で、Nさんの好きな淡谷のり子のCDを聞きながら二人でビールを飲んでいました。そこへ酔っ払った20代リーマンと、あまり酔っていない40歳くらいのリーマン(たぶんその上司)がふらりと入ってきました。毎日二丁目にいて感覚が磨かれているのか誰でもわかるのか、瞬時に私は、(面倒なノンケだわ!)と判断しました。

ゲイバーだと知った、酔っ払った若い方は座った途端に横柄な態度になりました。Nさんのオネエ言葉にはしゃぎ、と思ったら、バカにしているのかとスゴみます(超ウザイ)。異空間だと知って混乱しているのか、ノンケのバーでもこんな調子なのかわかりませんが、上司のおっさんも苦笑いしながら、その若いのをたしなめることはしません。

若いのが飲み始めて、ほとんど何を言っているのかわからない状態になった頃、Nさんはその上司と話し始めていました。
二人が資産運用の仕事をしていると聞いたNさんは、何を思ったか、レズビアンゲイパレードの話を切り出しました(Nさんは今年のパレードのスタッフでした)。アメリカでは大企業がスポンサーにつくが日本ではまだ有り得ないのだ、とか、日本の企業もこの先ゲイマーケットを無視出来ないようになると思う、とか、なにやらレクチャーをしています。

二人が帰った後、Nさんは、「どこでどうつながっていくかわからないし、ノンケの協力者は必要だから」と笑いました。
二回目に出会ったノンケは、芝居をやっている30歳前後の男子が3人です。

今度やる舞台で、ゲイカップルの役を演じることになった彼らは、誰かの紹介でこの店を教えてもらって来たのだ、と言います。この3人は、面倒ではないノンケ、後者の方でした。礼儀正しい彼らに気を良くした店員と常連客たちが、もっぱらゲイのセックスについて教え始めました。その芝居ではパンツ一枚で抱き合ってキスをするシーンがあるそうです。

キミが好きな女の子とキスをするときと同じだよ、とか、ゲイはみんなアナルセックスをしているわけではない、とか、個人的状況と一般論を織り交ぜながらのトークが繰り広げられました。彼らも、ゲイに対して気持ち悪いと思っていない、とか、そういうのだったらよくわかります、と始終物分りのいい生徒でした。

私はあまり参加する気がしなくて片隅で聞いていました。翌日相方のオーラちゃんにそのことを話したら、「その子たちが会話の中心にいたから、茶屋ちゃんがおもしろくなかったんじゃないの?」とツッコまれましたが、というより、私はなにかが引っかかっていたのでした。ゲイの役をすることになったから、そのためにゲイと話しに(を見に)来た。そのゲイの話に素直にうなずくノンケたち・・悪くはないんだろうけど、なんだかなー、という感じでした。

3回目。今度はバイセクシュアルだという21歳の大学院生がやって来ました。ゼミの教授がゲイで、ここのお店を教えてもらったそうです。タレントの斉藤双子に似た顔で、「女としかやったことないんすけど、男にやられてみたいんです」と言います。それから、それは女装した男がいい、とか、ベートーベンがタイプ、とか、羊とセックスしたいと思う、とか、斉藤似はこの先の欲望を次から次へと目を輝かせて語りました。もともとゲイのセックスは変態だという偏見からされている発言にも聞こえますが、可笑しくて笑いながら聞いていた私は、これだわ、と思いました。

私は、冒頭のママのいう二種類のノンケはどちらも面倒だと思っていて、わざわざ二丁目でレクチャーする必要もあまり感じていなかったのです。ゲイを下に見たり観察しに来るノンケたちは、どのみちそれによってあまり変わらないような気がします。
そんなノンケたちよりも、斉藤似のようにセクシュアリティを棚上げして、自分の欲望を公開する人のほうが、二丁目を一緒に楽しめるような気がします。

でもそう思うのは、3回のノンケとの遭遇で、個人的に斉藤似がいちばん可愛かったからかもしれません。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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