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捨ててゆく私 Vol.45「彼氏なんて意味ないよ」

茶屋ひろし2007.10.11

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「ハーイおねえさん元気?」
と、ひさしぶりにフィリピーナのジョン(本名、すみません)がお店にやって来ました。


お客さんです。今日のウィッグはトウモロコシの房のようです。四十代とは思えないハリのある肌。三ヶ月に一度は顔に注射して皺を消しているそうです。顔は美人(なんというか、内側から何かが溢れてきているような美人)、うっすらとメイクをしていますが女装はしていません。最初に出会ってから一年くらい、私はずっとジョンのことを近所のお店のママだと思っていました。ある日尋ねると、大手電気メーカーに勤めていると言います。そのカツラで? その毛皮で? そのラメ入りシャツで? 素敵な話です。
「デカイのないの?」
ジョンは棚に並んだDVDを眺めながらいつもの台詞を言います。ジョンは巨根好き。男の価値は大きさで決まります。お店でDVDを見ていても、表に好みの男性が通りかかると、「アレ大きいかしら」と私に目配せをして、すぐに表に飛び出していきます。戻ってくるのは一週間後です。そして私に報告します。
「こないだの、小さかった」
今日はDVDを探しながら、「彼と別れちゃった」と言います。どの彼か・・、紹介されているはずですが私はあまり把握していません。「あら、そう」と相槌を打ったら、一緒に来ていたフィリピン人の男の子が突然、「彼氏なんて意味ないよー!」と大きな声で言いました。その二十歳くらいの子は私の顔を見て笑います。
そう、彼氏なんて意味ないよー、ですか。
ジョンはあいかわらず真剣な顔で、「デカそうな」男の出ているDVDを選んでいます。

今朝出勤した私は、お気に入りのポチの服装が、昨日と同じことにいち早く気がつきました。ああ、イジらなくちゃ、と思います。答えはわかっていますが、私はポチのセクハラ上司なのでスケベに責めなくてはいけません。・・・割愛します。
ポチには、五年間想いを寄せている人がいます。最初の頃何度かアタックしましたがその度に振られました。それからしばらくして、月に一度か二度会って食事をする関係に落ち着きました。今もそれが続いています。昨日がその日だったのです。
その日は夜通し一緒に過ごします。ポチの仕事が終わってから会うので、深夜に近い時間に食事が始まります。ファミレスか焼肉に行くのだそうです。それからカラオケに行きます。そしてファミレスに行ってお茶をして、明け方には彼と別れ、ポチは漫画喫茶に行って仮眠をとり、午前に出勤するのです。

エロはないそうです。前に、「一緒にいたら、したくならない?」と聞いたときは、「それはそうです!」と言いました。私も、それはそうだ、と思いました。でも拒絶されるので仕方がないのです。
ところが月日が経つにつれ、我慢しすぎた欲望はなにか別のモノに変わっていったようです。今や一緒に過ごす時間はとても穏やかだと言います。夜通し一緒にいても、取り立てて何か話すわけでもないそうです。たいてい外で会いますが、眠たい時は彼の家に行って寝ることもあるそうです。なんだか中学生男子の夜更かしみたいです。

不思議な関係だわ、と思います。その彼には付き合っている人がいるのだそうです。エロがないからセフレではないし、でもポチはセックスをしたいからただの友達とも言えない。そんなわけだから恋人同士というわけでもない。
「楽しいんです!」
ポチは少し怒ったように言いました。
「彼氏なんて意味ないよ!」
フィリピン人の男の子の台詞を思い出しました。
彼には何があったのでしょう。
ポチの片思いの関係は、ポチの薄く引きのばされたようなエロが成り立たせているような気がします。
会えなくなるくらいなら彼氏になるなんて望まない! ということかしら・・。
なんだか「彼氏」が不人気です。

好きになってセックスをして付き合うことになってそのうちセックスがなくなって・・その状態をひっくるめて一緒に過ごす相手が「彼氏」、セックスをして好きになって付き合うことになってセックスがなくなるまで一緒に過ごす相手が「彼氏」、そんな「彼氏」をポチは求めているのではないかと、つい色眼鏡をかけて私はポチを見てしまいますが、そんなことはお構いなしに、ポチは彼と楽しく過ごしているように思います。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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