しつこいようだが、私は腕毛が長い。ギネスに認定されている10.1cmの世界一の腕毛を超えるほど長い腕毛を持つ。
いや持っていた・・・・。と、いうのも先日このコラムでも書いたようにパートナーであるAに噛みち切られ、現在では自慢の腕毛は5ミリほどになってしまった。それでも『いつかまた生えるだろう。』と楽観していた私であったが、腕毛は私を見放したように成長を止めてしまった。
私の右腕には、9cmを超える腕毛が2本生える。腕毛を眺めて25年。2本は“これ以上伸びません!”というまで伸び、その限界を超えた時、力尽きて抜け落ちるというサイクルを繰り返していた。同じ毛根で再び生まれ、数ヶ月の歳月の中で再び風にたなびくほどの長さに成長する2本の毛。2本の腕毛は着かず離れずを繰り返す、よきパートナーであり、同士だった。
そんな腕毛達が標的になったのは半年ほど前だろうか、Aは私に苛立ちを感じると噛みちぎり、ふざけては毟り取り、を数回繰り返した。そのたび怒りを向けてきた私であったが、ちょうど1ヶ月前、噛みちぎり生贄となった腕毛を唇にくわえるAを見て、私はマジギレしてしまった。あの瞬間を何と表現すればいいのだろう?そう、長い腕毛の覚悟がテレパシーで伝わってくるような感覚。
「あばよ。守ってくれないならもうここにはこないよ。」
腕毛は私にそういい残し飛んで行ったような気がした。
あれから1ヶ月。あの腕毛はいない。そしてもう1本の長い腕毛も成長が止まってしまったのだ。なんということだろう。私は2本の腕毛に見捨てられてしまった。
「無数の毛根から特定の2つの毛根を探し当てるなんて無理だよ。(笑)」
という人もいるだろう、「気のせいだよ」と笑う人も多いだろう。しかし、私にはわかる。2つの毛根のありかが。
今週の月曜日、私はAと“犬も居ぬ間に”でお馴染みのフジモトマミさんの3人でお寿司を食べに行った。
「飼っているペットが死んだら私はどうなるんだろう?・・・・」
という話題で盛り上がる2人をよそに、ペットロスという感覚がわからない私はあらゆる状況をシュミレーションしながら、その感覚を知ろうとしてみた。
そりゃ悲しい。落ち込む日も長いだろう。が、しかし2人が話すペットロスとはどうやら違うらしい。
「う~んと、う~」
フジモトさんが今にも涙を浮かべそうにキャン子の事を話していた瞬間、
私のカラダの中にその感覚が飛び込んできた。
「わかった!腕毛を失った感覚と同じかも!」
感覚を共有できた喜びに声を上げる私に、Aとフジモトさんは拒絶の笑みを浮かべた。
フ「それはちょっと違うかも。」
A「失礼だよ!そんなのと一緒にして!!」
私は、うなだれながらまぐろを頼んだ。
「まぐろ一つ・・・。」
ペットロス。私にとってそれは、腕毛を奪われた悲しみと似ている。
腕毛ロス。私の右手は喪失感で満ち、重く、深く広がる暗黒の海を浮遊している。2本の腕毛よ私を許してほしい。私は今腕毛ロス。