プルルル プルルル・・・
「今、ラブピース・クラブにいるんだけど、アンティルに会いたいという読者も一緒なのよ。ちょっと来られない?」
友人からの連絡に、少し照れながら「はい」と返事をした私。お会いしたお二人は、このコラムをはじめから現在に至るまで全て読んで下さっているという。うれしい読者の方とのコミュニケーションだ。
挨拶を交わした後、まず行ったのは腕毛鑑賞会だった。私はうれしそうに腕毛を触ってくれたAさんと、その後ろで微笑んでいたBさんを腕毛越しに眺めながら、心の中で腕毛に感謝をした。
「ありがとう。腕毛。」
“苺事件はいつまで続くのか?”
よく聞かれる質問だ。今日もAさんとBさんに尋ねられた。高校3年生の春に勃発した苺事件は、Tと私の別れの序曲となった。しかし大学生となり、Tとの別れが決定的なものになっても、このコラムの中で苺事件を終わらせることができない。終わらない苺事件と切れたはずのTと私の糸。糸はその先端にいる私の意志など関係ないよというようにムクムクと動きだし、まるで糸自身が意志を持っているかのように予想不可能な線を描いた。そう、あの電話が鳴った夜から、私とTは再び同じ糸を手繰り寄せたのだ。
『Tから電話がかかってきた! あの音は絶対Tの家の電話に違いない!』
泥酔した私に光が走る。数週間ぶりに仰ぐ希望の光。纏わりついた酒を振り払うように私は一杯の水を飲み干した。
ゴクゴクゴク・・・・・
『とにかく電話しなきゃ。話さなきゃ。』
ピポパポ
頭より早く指が動く様子をもう一人の私が客観的にとらえる。
プルルルル プルルルル
心臓が高鳴ってカラダに命が吹きかけられるのがわかる。
プルルル プルルルル プルルル
Tのお母さんを起こしてしまう危険を感じながらも、呼び出し音を鳴らし続ける私。
プルルル プルルルル プルルルルルルル
しかしTは出ない。
『何だったんだ?! あの電話は?!! Tじゃなかったのか?!いったい!?????・・・・・』
混乱と絶望の中で私は必死に考える。
ガチャン
私は受話器を置いて、剥がされた瘡蓋の痛みにもだえた。
トクトクトク
耳を切るような爆音で中島みゆきを聞きながら、再び酒瓶に手を伸ばした。眠ていても目が回る。目をつむっても世界が回る。グルグルと留まらない酒の世界に身を置いて、ようやく私は息を吸うことができる。
トクトクトク
その時、私は、その世界がもっと早く回って、どこかに飛んでいってしまうまで飲み続けようと思っていた。
プルルルル プルルルル
遠くで電話が鳴っている。
プルルルル プルルルル
飛び起きて受話器を握った私が、完全に酔っているつもりでも酔い切れない心があることを教えてくれた。
ア「もしもし」
電話の主はWだった。
W「ねぇ、眠られないんだけど、ちょっと話していい。」
ア「・・べつにいいけど」
W「何してたの?」
ア「なにもしてないよ」
・・・・・・・・・・・
たわいもない会話を1時間ほどしたところで、Wはまた私に誘いをかけてきた。
W「ねぇ、もうすぐ始発だからこない?」
ア「・・・・・・・」
W「じゃあ、私がそっちに行ってもいい?」
ア「わかったよ。じゃあ行くよ・・・」
ガチャ
2メートル先さえ、真っ直ぐに歩けないほど酔っぱらったカラダに服を着せ、ドアを開けようとした時、再び電話が鳴り始めた。
プルルル プルルル
ア「何?」
その一言を発した途端。私はその相手がWでないことを悟った。
「私だけど・・・。」
それは懐かしいTの声だった。