(前回の続きです)
一度気になると止まらない問題、ゴミ、騒音・・、売り子としては、これに万引きを加えていいですか。
京都にいた頃、最後に水商売の仕事に就くまで、私はずっとコンビニで働いていました。同じ店に五年はいたでしょうか。
思い出すとため息が出ます。そこで三年経った頃にはもう、毎日が地元の中学生たちとの闘いでした。
ヤンキーの子たちは数人で店内や店先にしゃがみこみ、塾帰りの子たちはヘアムースを万引きする。男子が多かったかしら。
勤め始めた当初は、地元の中学生たちと「闘って」なんていませんでした。それどころか私は中学生たちを気にも留めていなかったような気がします。三年を過ぎてくらいからでしょうか。私は大学を卒業してもその店で働いていました。アルバイトでしたが生活費を稼ぐようになったので、ほとんど毎日その店に入るようになりました。中学生も毎日来ます。というより、以前小学生だった子が中学生になっていました。
それでも私は彼らの存在をほとんど気に留めることもなくレジを打っていました。
店先の駐車場に捨てられたゴミが気になり始めたのはなにがきっかけだったのか、気がつくとヤンキーの子たちは、店で買ったお菓子の袋やカップ麺の容器を、食べたあと、そのまま地面に置いて行くのでした。ゴミ箱はそのすぐそばに設置しています。
箒とちり取りを持って表に出た私はその残骸を片付けました。どんな子が捨てていったかわからないのです。しばらくすると、どんな子がゴミを店先に捨てていくのかわかってきました。始めのうちは「ゴミはゴミ箱に捨ててね」とか、「車を停めることが出来ないから、ここで円陣を組むのはやめてくれない?」とか、声をかけていました。ところが、そのほとんどがシカトされました。ゴミはどんどん増えてきました。私は腹を立てながらどんどんゴミを拾いました。そしてついに、目の前でゴミを投げるように捨てられました。ショックでした。私は言葉が出なくなってしまっていました。そしてゴミを拾いました。
同時に、塾帰りの子たちの万引きも始まりました。私は監視の目を光らせるようになり、外はゴミ、店内は万引きで、まったく、私の精神状態は殺伐としたものへと変わっていきました。そうしてそんな状態が一年続いたあたりで、私はそこの店を辞めました。
もう、中学生のいないところへ行きたい!
そして木屋町の飲み屋で働き始めました(ちょっと違う)。
今にして思えば、私が彼らを、小学生の頃からずっと無視していたのだな、と思います。そして私が初めて彼らに声をかけたのが、「そういうことはやめてくれ」だったのです。
それは・・なんか、うまくいかないわ・・。
お酒の仕事をするようになって、すっかり、ゴミと万引きのことを忘れるようになった頃、今度は住んでいたアパートで、階下の騒音に悩まされるようになりました。
初夏のある日、二部屋の木造アパートに家族が引っ越してきました。母親(二十代後半くらい)と、子どもが三人(一番上が小学四年生くらい)と、犬が一匹。子どもたちのドタバタよりも、その母親がする、男との喧嘩が壮絶でした。その男は一緒に住んでいない模様。
夜勤の私が昼間寝ていると、下から男女の怒声と物をひっくり返したような音が突き上げてきます。そこは隣に住んでいるおじさんの咳払いが聞こえるほどの安普請です。大げさではなくアパートが揺れています。そのアパートは昼間も家にいる老夫婦が多く、みんな何事かと表に飛び出しました。二階の踊り場から見ると子どもたちと犬は表に出されています。
人が殴られたような音がするたびにハラハラします。それでも女のほうが負けていない感じで、最後は男が飛び出して行って終わりました。子どもたちを家に入れるためにようやく出て来た彼女に、「大丈夫?」と周りの人が尋ねても、彼女は「なんでもありませんから」とそれを振り払っていました。
「静かにしてくれ」なんて言う隙がありません。その後も喧嘩は何度か起きて、周りの人たちが大家に連絡をして、「なんとかしてくれ」と言っていたようですが、なんともならないまま日々は過ぎていきました。その女性はアパートの住人と、いっさい交流を持とうとしていない様子でした。
あるとき、私は犬の鳴き声で目が覚めました。ずっと下の部屋で吠えているので眠れなくなってしまい、外に出て下に降りてみました。すると、すりガラスの引き戸の向こうから、ダックスフンドが近寄ってきます。どうやらみんな出かけてしまったらしく、ひとりで留守番をしているようです。人がいなくなると吠えるらしく、私の気配を感じると大人しくなりますが、離れるとまた吠え始めます。甘えん坊です。
子どもたちのドタバタはしょうがない、あの男女の喧嘩には入れない、せめてダックスフンドのことだけでも、ひとりにしないようにお願いしてみようかしら。
そう思って私は初めて、下の部屋を訪ねました。ある夜のことです。
ノックすると中の話し声がやみました。私は、自分が何者かを告げ、「お話したいことがあります」と彼女を呼びました。子どもたちが駆け寄ってくる気配を感じましたが、その途端に、彼女が「出なくていい!」と叫びました。
そしてガラリと扉が開き、「なんですか」と私に対面した彼女の顔はすでに喧嘩腰でした。続く・・
(また、終わりませんでした・・すみません。たぶん次回で終わります。バイトちゃんの話に戻ると思います)