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捨ててゆく私 Vol.37「ナガブチ男子」

茶屋ひろし2007.08.08

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(長渕剛について書くことをお許しください)
先週、長渕剛のCDを四枚買いました。CDショップで、昔のアルバムが再発されているのを見かけたからです。小中学生の頃に好きでした。従兄弟のお兄ちゃんにレコードを何枚かカセットテープにダビングしてもらって、夜寝るときによく聞いていました。長髪で細く高い声で「女の気持ち」を歌っていた初期から、テレビドラマ「親子ゲーム」のチンピラが「とんぼ」のヤクザになる中期まで、好きでした。

それから先は、嫌いになったというより、聞くことが出来なくなっていった感じです。
二丁目に来て、たまにその過去を周囲の人に言うと、
「へー、ノンケみたいだね」
と言われます。これまで三回言われました。
そうか、ナガブチを聞いているということはノンケみたい、なのか。
そう言われてみれば、二丁目でナガブチを好きだというゲイ男子にまだ会ったことがありません。いろんなお店でカラオケしましたが、ナガブチを歌っている人を見たことがありません(尾崎豊はたまにいる)。
ヤクザをたくさん演じたあと、ナガブチはどんどん見た目がマッチョになっていきました。プロテイン風のマッチョです。ヴィジュアルだけでもゲイ受けしておかしくない気がします。
けれど駄目ですか、そうですか。思想の問題かしら。

実は数年前にも、もう一度聞いてみようと、すっかり聞かなくなっていた昔のCDを何枚か買いなおしたことがあります。けれどその時は、一枚を最後まで聞くことすら困難になっていました。昔はあんなに何回も繰り返し聞いていたのに、と不思議に思いましたが、理由はよくわかりませんでした。

今回、昔のように布団に入って、買ってきたCDをかけてみました。最後まで聞けました。それは、聞いているうちになぜかどんどん腹が立ってきて目が冴えてしまったからです。聞いていたのはチンピラ時代の一枚です。このアルバムは、友の裏切り、ということがメインのようで、「アンタは変わっちまったね、オレも変わったよ」というような歌詞を歌います。なんでしょう、聞いているとどうしても、「苦しんでいるオレは悪くない、オレを苦しめたオマエも悪くない、けれどそのことを歌っているオレは偉い」と、言っているように聞こえてくるのです。

小中学生の頃の私は、「大人の男は、偉いオレ、というものにならなければいけないのだ」、なんて思って聞いていたのかもしれません。それはナガブチの歌う「オレ」の視点に立って聞いていたからだと思います。そこに同化しないとそんなに何回も聞けないような気がします。

それが今聞くと、飲み屋でオッサンの愚痴を聞いている私が現れます。ナガブチの歌う「アンタ」が私のことのような気がしてきます。そして私は、ナガブチを聞けなくなって十数年、そういうオッサンを飲み屋で何回も怒らせてきた記憶がフラッシュバックしてきました。

苦しみを訴えるオレ、一人前の男になれないオレ、信じていた友に裏切られたオレ、格好ばかりつけて本当は臆病なオレ、オレに負けたオレ・・たくさんのネガティブなオレを登場させた後に、「だから、オマエが包み込め、そんなオレをぴっちり包み込め!」って言います、このひと。「それが愛だ」と。

三年前、ナガブチは桜島でオールナイトの野外ライブをしました。全国から七万五千人のファンが集まったそうです。そのとき観客は一斉に日の丸を振ったそうです。
そう、ついにナガブチは国になりました。ニッポンという国に。
そんなバカな。
先日、ゲイバーで、「ノーと言えない日本」を支持しているゲイ男子に出会いました。「日本人は日本人であることに自信がなさ過ぎる!」と怒っていました。
先先日、ポチとご飯を食べていたら、「茶屋さんは黙ってオレの愚痴を聞いていればいいんですよ!」と怒られました。
どうやら、ゲイ男子だからナガブチを聞かない、ということもなさそうです。
ただ、二丁目には少ないはずなのに、長渕剛を好きだった癖が残っているのか、私は二丁目に来ても、いつのまにかナガブチ男子と飲んでいることが多いような気がします。

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茶屋ひろし

茶屋ひろし(ちゃや・ひろし)

書店員
75年、大阪生まれ。 京都の私大生をしていたころに、あたし小説書くんだわ、と思い立ち書き続けるがその生活は鳴かず飛ばず。 環境を変えなきゃ、と水商売の世界に飛び込んだら思いのほか楽しくて酒びたりの生活を送ってしまう。このままじゃスナックのママになってしまう、と上京を決意。 とりあえず何か書きたい、と思っているところで、こちらに書かせていただく機会をいただきました。 新宿二丁目で働いていて思うことを、「性」に関わりながら徒然に書いていた本コラムは、2012年から大阪の書店にうつりますますパワーアップして継続中!

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