「あのさぁ!アイスクリームの中で何が好き?!!」
動揺を隠すために咄嗟に口を出る言葉ほどおかしなものはない。何の脈略もなく発せられたクエッション。もちろんそこには何の意味もない。答えを待つ私にWは無言で答える。Wはいっそう深く私のカラダに腕を回し始めた。
「最近さぁ!今さらながら雪見だいふくにはまっちゃって毎日コンビニガ通いなんだよね!!!」
私はさらにムーディーになった部屋の濃度を薄めるために、能天気な声を上げ、一人テンション高く雪見だいふくの良さを語り始めた。
「大福のなかにアイスなんて、よく考えたよね!!でもあの皮の部分、凍らせても固くならないなんえねー!!!いやーすごいね技術って!!!」
私の動揺は頂点に向かって駆け上がっていった。アイスの進化論にも発展しそうな勢いは鼓動の早さに比例してさらに駆け上がっていく。
「そもそも味付きジュースを凍らせるシンプルなアイスからソフトクリームへと進化した時点で大発明だよ!!食のノーベル賞がないのが不思議だよ!!!ソフトクリームを考え人にノーベル賞をあげたいね!!!!」
一人あてのないゴールに向かって全力疾走をする私の背中に、Wは顔を押しあてた。
『まずい・・・』
さらに濃くなるムード。私は最後の手段へと進む決意をした。寝たふり攻撃だ。
「スゥースゥースゥー」
凄まじく寝付きの早い人を装い寝息を立てた。Wは数回軽く私を揺らすと、諦めて台所に歩いていった。
薄目を開けるとWはただ台所に立っていた。月明かりに照らされぼんやりと見えるWの後ろ姿はどこか寂しい。いや寂しいというより切羽詰まった想いを押さえきれず爆発寸前の一つの塊のようだった。
その姿を見た時、私は自分の予感がはずれていないことを確信した。
私を電話で誘った時、私に腕を巻き付けた時のWの気持ち、私には、それがただの恋愛感情から起こった衝動に思えなかったのだ。私がTにTが私に向けたようた欲望のまなざしとは種類の違う衝動がWの中にはある。そ私はそのことが少し不気味だった。
私はTとのセックスのことを考えていた。もしこれがTならば・・・。その答えの先にはあったのは喪失感だった。Tとのセックスの喪失感。
『Tじゃなきゃだめなんだ・・・・。』
私は寝息を立てるのも忘れ呆然と宙を眺めていた。
その時だった。
ガチャン。
台所にいたWがうずくまるように床に座り込んでいる。私は驚いて飛び上がりWのもとへ走っていった。
「どうしたの?!」
倒れ込むようにぺったりと床に腰を降ろすW。Wの顔は涙で濡れていた。