リリリーン リリリーン
私の希望をつなぐ赤い電話。
リリリーン リリリリーン
Tと私をつなぐ線。
リリリリリーン
絶望の中で私はその音がなるのをじっと待っていた。
勧誘電話を切った後、その音は再びなった。
『今度こそTかも!』
私は急いで電話を取り、受話器をギュと握りしめた。
「もしもし。もしもし!」
「・・・・・・」
こちらの呼びかけにも答えない声の向こうで誰かの息づかいが確かに伝わってくる。
「誰なの?!」
「・・・・・」
Tだと思った。無言電話が何よりも証拠。しゃべらない電話など、他にかけてくる人はいない。
『Tだ!』
しかし、ようやくTと話せると思った瞬間、私も言葉を失ってしまった。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
受話器の向こうから相手のいる部屋のかすかな音だけが伝わってくる。黙っている訳はいったい・・・・。3分経過、5分経過、10分経過・・・そして15分後、私は思いがけない事実を知ることとなった。電話の主はTではなかったのだ。
「あの~同じクラスだったWですけど・・・。」
それはほとんど話したことがなかったWからの電話だった。
「あーぁ。どうしたの。」
消沈する私は、絶望の中に見つけたほんの少しの希望が崩れ落ちていく音を聞いていた。
「あのさぁ。アンティルってオンナが好きなんでしょう。」
その声は興味から発せられる上ずった声ではなく、どこか沈んだ暗さを持つ重みのある声だった。
「なんでそんなことを聞くの?」
「私と明日、会ってほしいんだけど。」
生まれて初めてのお誘い。そのお誘いはマンガやドラマに出てくるそれとはあまりに違う、暗く重いものだった。もしこの時の風景を印刷したらきっと墨絵のようになるだろう。
『私に課せられたもの。それはデートの誘いさえ色付かない物語なのだろか。』
どこまで深く夜に沈む洞窟のような場所で生き続けなければならないことを、この時私は覚悟した。
「いいよ。何時。」
「学校から離れている場所がいいの。だからA駅で4時に待っている。」
Wが指定した場所は、今流行のデートスポットでもなく、おしゃれなお店がある場所でもない、私にもWにも縁のない隣の県の繁華街だった。その場所を選んだ基準は“学校や知っている人の目から離れているから”。しかし、そのことが伝わってもその頃の私には、痛くも痒くもなかった。私を傷をつけられるもの。それはTだけだったのだ。
「じゃあ、明日待ってるからね。絶対来てね。」
「うん。」
Wと私。それは不思議な縁で結ばれた2人だったのだ。