寝起きのTの横で正座をした私はTの母に説教されていた。
「あんな所からこんなモノ飛ばすなんて何考えてるの!窓にいっぱい傷があるのもあなた仕業でしょう!」
怒りに顔を赤らめる母親の横でTは不機嫌そうに窓の外を眺めている。
言いたかった。
『私はTとつきあっているんです。』
『つきあっているのにTがKという男と遊んでいるんです。』・・・・・。
言えない言葉を飲み込んで私は親指をギューっと握り締めた。
『辛いよー辛いよー』
心の中で叫ぶ私の上で誰かが何かを言っている。
「もしあなたが“普通のオトコ”だったらこうはならない。あなたが好きで選んだことでしょう。それは自業自得。」
この3年間で私に身についたこと。それは“オンナが好きな私”であるためには辛いことも理不尽なことも当たり前。それが“普通”の状態であるという覚悟だった。Tがいたから耐えられた。Tとのセックスがあるから私は私でいられた。しかしTを失いかけている今、その覚悟は拷問のように私に痛めつけ始める。
母『あんたたち、レズじゃないの!』
ビクッとしてTに助けを求める私。
T『そんなわけないじゃない。気持ち悪いレズなんて!』
Tは“レズ”という言葉と横にいる私へ向けて嫌悪の表情を浮かべ母親を睨んでいた。それは本物の嫌悪だった。
見慣れたベット。使い慣れたステレオ。毎夜忍び込んだ押入れ。何一つ変わらない風景の中で変わってしまったTを見ながら、少し不思議な気分で私は現実を噛締めていた。Tの母親が部屋を出て行く後姿が見える。
『Tが今この世で一番いなくなってほしい人は私なんだ。』
オレンジ色のきれいな朝の陽がキラキラと揺れていた。
T「何しに来たの。」
ア「本当のことを教えてほしい。あの夜Kと二人きりだったの。」
T「違うって言ってるでしょ。」
ア「Kとは付き合っているの?」
T「ただの友達だよ!」
ア「じゃあ!あのペンダントはどうしたの?!誰にもらったの??!!」
T「しばらくアンティルとは会いたくない。学校の準備で忙しいの。帰って!」
真実とは不思議なものだ。真実があると思うと知らないではいられなくなる。その後に苦しみが待っていようとも、真実を見ずにはいられない。そのパワーはあの時の私の原動力のすべてだった。
ア「本当のことが知りたいんだよー。教えてよーーー」
T「落ち着いたら電話するから。」
この日から3週間。Tからの電話はなかった。
アンティル、大学生になる1週間前の出来事だった。