眠れない。とんでもなく疲れているのに、2時間おきに目が覚める。7時、9時、11時・・・・。起きるたびにあの夜の出来事が夢だと錯覚する私は、脱ぎ捨てた服によって現実に引き戻され再び打ちのめされる。それは私に事実というものはけして変わることではないと教えているみたいだった。
夜が怖い・・・。
「おまえはこの世界には入れないよ~」
「入りたければ侘びをいれな~」
部屋の中に立ち込める闇がそう伝えようとしているみたいで、私は急いで灯りを点す。オンナが好きな私を待つ明日。あるのは社会からはずれた所で彷徨い歩く亡霊としての人生なのか。涙が止まらない。
『このままだと闇につぶされてしまう。』
闇から現実を引き出そうと、私はあわてて受話器を取った。
Tへの電話。1回鳴らして切る。それを2回。それが私達の合図だ。ツーガチャ。ツーガチャ。ツーツーツー・・・・2時間おいて深夜1時。ツーガチャ。ツーガチャ。ツーツーツー・・・・さらに2時間おいて深夜3時。ツーガチャ。ツーガチャ。ツーツーツー・・・・
「はい○○ですけど。」
不機嫌なTの母親の声に慌てて私は電話を置いた。
辺りがうっすらと明るくなり始めた朝6時。私はたまらず家を飛び出した。真実はどこにあるのか。私の残されたものは真実という希望と絶望だった。私はまたTの家の前にいた。
家の自転車置き場にTの自転車があることにほっとして私は定位置に着く。向かいのアパートの踊り場だ。どうすればTと話すことができるか考えた私はTの部屋の窓に向って紙飛行機を投げることにした。ブラインドは半分開いている。ラッキー!窓側に頭を向けるTに向って紙飛行機を飛ばせば、Tの親に気が付かれることなくTは窓を開けるかもしれない。私はゴミ捨て場にあった新聞紙をやぶり10機の紙飛行機を折った。
『よーしやるぞ!』
その距離7メートル。
『せーの・・・』
30センチ進んで急降下した飛行機は私の足で不時着。
『折り方が悪かったかもしれない。今度こそ。』
ヒュウウウ~ポタンTの家とアパートの間にある5メートル道路に飛行機は落ちる。
『そうか!風を読めばいいんだ!!』
指先につばをつけ風の方向を確かめる。
『えい!』
プップッーー
私の飛行機を踏んだ車がクラクションを鳴らし走り去っていった。4機目、5機目、7機目。失敗。そして8機目。風に乗って飛行機は上へ上へと上がっていった。
『やった!』
とうとうTの部屋のベランダまで飛行機を飛ばすことに成功した。
『もうちょっとだ。窓にぶつかればきっとTはこちらを見る!お願い神様!!』
フワフワフワ~
飛行機はゆらゆらと揺れながらTの部屋めがけ進んでいった。
『よし!今度は大丈夫だぞ!!』
ビュュッ
気まぐれな風が飛行機の向きを変え、隣の窓に向って進んでいく。それはTの母親の部屋の窓だった。
『やばい!』
!ガラッ!飛行機はカーラーを頭いっぱいに巻いたTの母親の顔をめがけ飛んでいった。
「アンティル!そんな所で何してるの!!」
朝の住宅街、周辺の窓がいっせいに開いた。ガラッ!アンティルの紙飛行機作戦は成功した。