結婚式の二次会に呼ばれて、ひさしぶりに京都へ行きました。結婚したのは京都にいた頃に知り合った女友達です。顔が及川光博に似ているので、ミッチーにしておきます。
それにしても、いつも、女友達が結婚すると、その友達を何かに獲られたような気持ちになります。なんでしょう、うまく説明できません。ともかく、複雑な気持ちになります。
先にダンナのほうからメールが来ました。ミッチーが恥ずかしがって私に報告をしないので自分がした、という内容でした。彼のことは少し知っていました。会ったこともあります。嫌いじゃないです。IT企業でバリバリ働く同年代、物腰は柔らかくてメガネ男子でちっちゃくて・・・・、むしろタイプに入ります。そんな彼が報告のメールをくれたことも、ミッチーが私に報告を出来なかったことも、私にとっては、なんというか、超リアルでした。
ダンナともミッチーとも恋愛したことはありません。なので、昼メロのような展開があって、そんな結果になったわけではありません。
そのリアルな感じをどう説明したらいいものやら・・、ただ、私はそのとき、これは行かなくてはならない、と思いました。行かないと、きっと、ミッチーはもう私に会わなくなる、と思いました。とりあえず、みんなの前で「おめでとう」を言わなくてはならない。
たぶん、私は結婚を祝うためというより、ミッチーとの関係を守るために京都へ行ったような気がします。というか、そもそも私は結婚というものをよく知らないのです。よく知らないものは祝えないのです。けれど、今まで結婚した女友達と私の関係が、いろんなふうに変化していった経験だけはあります。その経験を大雑把にまとめたら、簡単に会えなくなる、ということになるかもしれません。もし会うなら、いろんなものを込み、で会うことになる、というか。
ミッチーに限って言えば、簡単にどころか、もう会えなくなるような気がしたのです。
それは、ミッチーがダンナを通して報告をしてきたからだと思います。今まで、そんな女友達はいませんでした。そんなに友達じゃなかったのかも・・、とふと思いました。
そして私は、ミッチーが、どんな男性のことも、けして「オトコ」とは言わず、「男の人」と言う人だったことを思い出しました。私は今まで、ミッチーにとって、友達ではなく、「男の人」だったのかもしれません。
京都にいた頃、私はノンケのバーで働いていて、ミッチーはそこのお客さんでした。近所でOLをしていました。
夜の木屋町に遊びに来る人たちはみんな恋愛を求めていました。年齢や職業を問わず、カウンターに座ると誰もが相手を探していました。いざカップルになるとその姿をお披露目しなければなりません。くっついたり離れたり・・酒の肴はいつも誰かの噂話でした。
そんな中で、ミッチーは浮いた存在でした。みんなの使う恋愛用語みたいなものに馴染まないのです。隣から口説いてくる男といつも話が噛みあいません。それは生まれた星がそもそも違うような感じです。ミッチー言語はいつのまにか口説いてきた男を煙に巻き、その場をミッチーの星にしてしまいます。その星には、どろりとした欲望や嫉妬は存在しないかのようでした。
ある日、ミッチーが私の住んでいるアパートに遊びに来ました。ちょうど今のような梅雨の季節でした。夕方にそうめんをつくって二人で食べた後、それぞれ黙々とマンガを読みました。気がつくと夜もすっかり更けたので、布団を並べて横になりました。夜中に私はミッチーの歯軋りの音で目が覚めました。私は驚きました。
その歯軋りは、ミッチー星の表現ではなかったからです。
そういえばミッチーは、会社に変なおじさんがいる、とよく言っていました。その上司はミッチーのことがお気に入りで、いつも飴をくれるのだと。そう、それはよかったわね、となにげに返事をしていたのですが、私は密かにミッチーがそのおっさんにセクハラされているのではないかと思っていました。ミッチー星に「セクハラ」という言葉はありません。一度私が尋ねたときは、そういうことはよくわからない、と言っていました。
そして私が東京に来た頃、いつのまにかミッチーは、女性が経営する女性しか働いていない会社に転職していました。
結婚式の二次会は、ミッチーの企画で、「ロッキーホラーショー」がテーマでした。ミッチーがダンナと知り合う場所となったパソコン教室の先生(太った男の人)が、人造人間ロッキー(ドラァグクィーン)に扮し、会場に映画を流しながら、歌い踊り始めました。白いドレスを着ていたミッチーもそれを脱ぎ捨て、ロッキーと同じ黒いガーターベルトとブラ一枚の衣装に変身しました。ダンナもタキシードを脱いで同じ格好になりました。
トランスセクシュアル星から来た人になった彼らはとても楽しそうでした。
来週、ミッチーは新婚早々、一人で東京に遊びに来ます。いっしょに上野動物園にミッチーの好きなパンダを見に行く予定です。